今年4月に開館20周年を迎えた「新江ノ島水族館」。藤沢の観光名所として、また国内有数の研究機関として、相模湾と太平洋、そこにすむ生物に関する学術の発展に貢献してきた。全4回の連載で同館に携わった人たちの証言を聞きながら、これまでの軌跡を辿っていく。初回の主役は、昨年11月に亡くなった名誉館長の堀由紀子さん。前身となる江の島水族館の屋台骨を支え、新館リニューアルに尽力したリーダーの手腕を現館長の崎山直夫さんに聞いた。
「明るく、元気に、朗らかに、そして勇ましく」。スタッフをこう鼓舞しながら、水族館経営に心血を注いできた堀さん。「特に『勇ましく』の部分が大きかった気がするけれど」と崎山館長はいたずらっぽく笑う。
厳しさを持ちながらもスタッフに慕われていた堀さんだが、生活が一転し、社長、館長を務めた異色の経歴の陰には、たゆまぬ努力があった。
1952年設立の株式会社江ノ島水族館を義父から継いだのは、客足が伸び悩んでいる70年代中頃だった。経営の立て直しはもちろん、専業主婦が突然企業のトップを任されたことで、当初は従業員と信頼関係を築くのにも苦労したそう。その後、経営は軌道に乗ったものの、バブル崩壊によって新館へのリニューアルが難航するなど、困難な運営状況は続いた。
そんな中でも、ぶれない信条があった。「水族館は楽しく、ためになって、夢が持てる場であること。そのバックヤードには真摯な生物研究がなければならない」という初代館長を務めた雨宮育作さんの教えだった。持ち前の行動力や負けん気を生かし、この教え通り水族館が居心地の良い場所になるよう、外観や展示内容の変化を絶えず繰り返してきた。
特に注力したのは、海洋教育にまつわる事業。新館改装時にオープンし、今でも人気の「なぎさの体験学習館」は、堀さん肝入りの施設だ。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の有人潜水調査船「しんかい2000」の展示は、自身も喜んでいたという。崎山さんは「めったになかったけれど」と前置きし、「『いいものはいい』と褒めてくれる従業員にとって母のような存在だった」と振り返る。
堀さんがずっと大切にしてきた「楽しく、ためになる水族館像」は、今日も来場客の心を捉えて離さない。
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