鎌倉のとっておき〈第1回〉 雪の円覚寺舎利殿
鎌倉期に大陸から伝わった建築文化は、日本の寺院建築に大きな影響を与えました。その中でも、禅宗寺院の建築様式であった禅宗様は、その流麗な美しさのためか、あるいは異国情緒へのあこがれもあってか、日本人の感性に受入れられ、後世に受け継がれていきます。
円覚寺舎利殿は、15世紀頃に、西御門にあった太平寺の仏殿として建造され、その後、現在の地に移築されたと言われています。ほぼ当初の姿を残す数少ない禅宗様の遺構です。
くっきりとした花頭窓の曲線、柱間と柱上詰組配置のバランス、弓状の欄間、板壁のトーンが、独特の雰囲気を作り上げます。また何より、周囲の緑に包まれた中にのぞく反りの大きな屋根、全体のフォルムは秀逸で、尼寺の仏殿として誕生した気品が漂うようです。鎌倉の地に降り立った大陸の花嫁は、600年の時を経て、優美に輝き続けているのです。
何年か前のこと、大雪が降った翌日、円覚寺を訪れてみますと、舎利殿は、雪化粧の世界の中で、えも言われぬ美しい姿を見せてくれました。音のない空間に澄んだ空気が流れ、忘れられない出会いになりました。
雪の国宝円覚寺舎利殿。とっておきの鎌倉の情景です。 (石井卓郎)
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