父・眞一さんが撮影した鎌倉の風景をまとめた写真集を刊行した 竹腰 吉晃さん 材木座在住 60歳
受け継ぐ鎌倉の風景
◯…50年以上も押し入れにひっそりと眠っていた写真やネガ。そこには松林が続く由比ガ浜の海岸や舗装されていない若宮大路、茅葺き屋根の建長寺など、今は失われてしまった鎌倉の風景が収められていた。父・眞一さんが戦後間もない頃から10年にわたり撮影した90点を掲載した写真集をこのほど完成させた。「多くの人に懐かしい鎌倉の姿を見てほしい」と明日から写真展も開催する。
◯…戦地から帰国後、酒販店を営みながら鎌倉を撮り続けた父。幼稚園に入る前に亡くなったため、その記憶はほとんどないという。押し入れの箱に父の写真が入っていることは知っていたが「古いだけでどうってことない写真だと思っていた」と振り返る。一昨年、何の気なしに引っ張り出した父の写真に目を見張った。移ろいゆく四季や市井の人々の表情など、シャッターを切った瞬間の父の感動が伝わるように感じた。「歴史的な意味だけではない、何より写真作品として面白い」と、数十点を選んで写真展を開催したところ大きな話題となった。
◯…「お気に入り」は数多いが、その一枚が鶴岡八幡宮へのお宮参りを写した一枚。母の腕に抱かれる自分とその表情をのぞきこもうと伸びをする姉の姿。「口数は少ない人だったそうだけれど、家族に対する愛情が感じられるね」と微笑む。いつ、どこで撮影したのか分からない写真も多く、撮影場所を推測して訪ねることも多い。「ミステリーを読み解くような気分」と数十年を経た父との「会話」を楽しんでいる。
◯…父が遺した店を継いだが8年前に閉店。現在は昭和の佇まいを残したギャラリーとして運営している。父の作品のデジタル化も進めており、市への寄贈なども検討中。「子どもたちはもちろん100年、200年後の市民に鎌倉がこのような姿だったと知ってもらえれば」。自らも生まれ育った鎌倉の美しい風景を、次代に受け継いでいく。