金春流能楽師で「鎌倉薪能」の総合プロデューサーを務める 山井 綱雄さん 横浜市在住 43歳
伝統守るため挑戦続ける
◯…今年で58回目を迎える「鎌倉薪能」が10月7日、8日の2日間、鎌倉宮で開催される。関東では最も長い歴史を有する薪能として人気の舞台に、自ら出演、プロデュースも手がけている。「もともと能は神事として始まったもの。古都鎌倉の、それも鎌倉宮という神聖な場所で、伝統芸能に触れる特別な時間を楽しんでほしい」と微笑む。
◯…出身は横浜市。金春流能楽師だった祖父の影響で、5歳の時に初舞台を踏んだ。12歳で早くもシテ(主役)を務め「いつか祖父を越える能楽師になりたい」と決意。現在は国内外で公演を行うなど活躍を続けている。「鎌倉薪能」には学生時代から20年以上も携わっており思い入れの強い舞台の一つだ。「確かに能は平易なものではありません。しかし一度見てもらえれば、千年以上も磨かれ、受け継がれてきた日本人の心や英知を感じとれるはずです」と熱っぽく語る。同公演ではパンフレットで物語を紹介するなど、初心者にも分かりやすい工夫を随所に施している。
○…これまでロックやジャズなど多彩なジャンルのアーティストと共演してきた。自ら「他流試合」と呼ぶこうした取り組みを続けるのは「もっと能の可能性を追求したい」という思いから。現代劇に出演した際には、エチュードと呼ばれる即興劇を重ねて舞台を作り上げた。「無駄なものを極限までそぎ落とした能とは真逆のアプローチですが、所作一つ一つの意味をより深く、立体的に考えられるようになりました」と経験を演技に還元する。
○…中学時代からロックバンド「聖飢魔II」の大ファン。ボーカルのデーモン閣下さんとは仕事を通じて知り合って以降、親交を深めており「あなたは能楽の新しい扉を開く人だ」というエールを贈られた。「想像していた以上に大きく暖かい人。閣下は悪魔ですが、私にとっては神様のような存在ですね」。そういうと満面の笑顔を見せた。