鎌倉のとっておき 〈第59回〉 鎌倉文士からの贈り物
風光明媚で温暖な鎌倉の地は、名だたる作家たちが活躍した文学のまちである。
例えば明治期の夏目漱石や島崎藤村は、円覚寺での座禅体験などを作品の題材とし、また大正期の芥川龍之介は、自ら鎌倉に住みながら創作活動に励んでいる。
こうした鎌倉ゆかりの作家たちが残したものは、優れた文学作品だけではなかった。特に昭和初期あたりからの「鎌倉文士」と呼ばれた作家たち、例えば小説家の久米正雄や『鞍馬天狗』の作者である大佛(おさらぎ)次郎は、音楽祭やミスコン、装飾した車のパレードなどで構成した「鎌倉カーニバル」(1934〜62)を発案・開催し、日本の夏の風物詩としても有名になった。
またノーベル文学賞作家の川端康成は、久米正雄らと共に自らの蔵書を持ち寄り、貸本屋「鎌倉文庫」を創設(1945)し、人々に娯楽と学びの場を提供。さらに小説家の高見順や歌人の吉野秀雄は、演劇科や産業科などを有し光明寺に開校された「鎌倉アカデミア(鎌倉大学校)」(1946〜50)の教授として大学活動の先駆者となった。
こうした鎌倉文士の活躍は、鎌倉の名をトレンド先駆けの地として、また人々の交流の場、学びの場として全国へと発信していった。国際アンデルセン賞作家の角野栄子氏も「素晴らしい景観や歴史など宝物が沢山ある」とその愛着を語った古都鎌倉。今や世界の人々が集い「日本の文化と心」を学び楽しめる国際色豊かなまちでもある。
石塚裕之
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