鎌倉のとっておき 〈第65回〉 鎌倉夏ごよみ〜葉月の頃〜
8月。鎌倉の海は多くの海水浴客でにぎわうが、まちは蝉時雨に包まれる中で蓮や百日紅(さるすべり)、芙蓉など夏の花々が咲き揃い、思いのほか静かである。
二階堂の覚園寺では8月10日、「黒地蔵縁日」が開かれた。覚園寺は、静寂な谷戸に中世鎌倉の佇まいを残す名刹。そして黒地蔵は、地獄に落ちた罪人でも苦しみから救ってくれるありがたい地蔵菩薩で、午前零時から正午までの間、この世を去った命の冥福と今を生きる私たちの幸せを祈る法要が厳(おごそ)かに行われた。
また、立秋の前日から3日間ほど、鶴岡八幡宮では「ぼんぼり祭」が開催された。期間中は、鎌倉ゆかりの画家や芸能人などが揮毫した数多のぼんぼりが参道に並び、夕刻には火が灯され、幽玄な世界を醸し出した。
初日は「夏越祭」。源平池の畔で夏の邪気を払う神事の後、参道で健康を祈願する茅の輪くぐりが行われた。
立秋には「立秋祭」。これは夏の無事に感謝し、実りの秋の訪れを奉告するもので、神前には鈴虫が供えられ、舞殿で神事が執り行われた。
最終日には「実朝祭」。8月9日は源実朝の誕生日でもあり、文芸に優れた実朝公にちなみ、短歌や俳句、茶道などの奉献者たちが神事をした。
明治期から保養地として多くの人々から愛されてきた古都鎌倉。古の行事を通じて、今をともに生きる人々への感謝の気持ちも新たにできるまちである。
石塚裕之
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