鎌倉芸術館で開催される「日本語で歌う『第九』歓喜の歌」を指揮する 飯森 範親さん 56歳
「歓喜の歌」に思い込め
○…日本を代表するマエストロが鎌倉芸術館に帰ってくる。来年1月19日に行われる大ホールのリニューアル記念公演に登場。同館では実に26年ぶりに「第九」を指揮する。「ベートーベン生誕250年という節目の年の初めに、地元で演奏できることは本当にうれしい」と笑顔を見せる。
○…市内小町で生まれ葉山で育った。指揮者を志したのは10歳の時。「『ボレロ』を聞いて衝撃を受けた。この感動を生み出しているのは誰か、と考えたら指揮者だと。自分も絶対にそういう存在になりたいと思った」と振り返る。現在は山形交響楽団芸術総監督を務めるほか、国内外のオーケストラと共演を重ねる。「つらいと思ったことはない。良い音楽を聴衆に届けたいという思いは全員同じ。その過程でいくらやりあっても、素晴らしい演奏が出来たらみんな満足なんです」
○…鎌倉芸術館では、1993年の開館に際して記念式典での「展覧会の絵」やオペラ「静と義経」、そして「第九」を立て続けに指揮した。「駆け出しだったので、大きなチャンスに張り切っていました」。一方で公演当日に祖母が亡くなったことも忘れえぬ記憶だ。「もう話は出来ないかもと言われていたのに、前日にお見舞いに行ったら目を覚まして会話ができた。それが最後になりましたが、いまだに不思議な思いがします」と静かに語る。
○…自身の苦しみや社会情勢、死後の世界までも提示しながら、最後は「人類が兄弟になる」と歌いあげる第九。「この曲のメッセージは100年後も人々の心に響き続けるはず。我々が音楽を求めるのは、そこに普遍的な価値、本質があるからだと思う」。時を経て届くベートーベンの思いを、円熟のタクトで表現するつもりだ。