鎌倉のとっておき 〈第74回〉 鎌倉新春ごよみ
新春の鎌倉は、鶴岡八幡宮をはじめ多くの初詣客でにぎわうが、その中で古(いにしえ)から続く仕事始めの儀式など、中世鎌倉の様子を伝える行事は今もなお続いている。
漁師など漁業関係者の仕事始めは、坂ノ下や材木座、腰越で行われる。
1月2日の坂ノ下海岸での「船おろし」は、大漁旗を掲げた船が海岸に集まり、船内に祀(まつ)った船(こと)霊(だま)(船の守り神)にお神酒を供えたうえ、船主が船の上からみかんなどを撒き、一年の豊漁と安全を祈願するもの。みかんは「漁で黄金が返ってくるように」との願いをかけて撒く。1月4日には腰越漁港でも行われ、「船祝い」と呼ばれている。
一方、大工など建築関係者の仕事始めは1月4日、鶴岡八幡宮での「手斧始式(ちょうなはじめしき)」。鳶職が神職先導のもと、二の鳥居から段葛を木遣唄を唄いながらご神木を運ぶ。舞殿前では、烏帽子に直垂(ひたたれ)をまとった姿で鋸や手斧、槍かんななど木工用工具を使い、木を加工する際の所作を古式ゆかしく再現する。そして、1月5日に武家の仕事始めとして鶴岡八幡宮で行われる「除魔神事」。烏帽子に直垂姿の射手6人が2人ずつ順番に、直径約1・6mの的(裏に「鬼」と記載)に向けて矢を射ることで「鬼」を封じ込め、年中の除魔を行うもので、鎌倉時代から続く伝統行事である。
新春の訪れとともに、一気に活気づく古都鎌倉。今も昔も職業人の心意気に満ちあふれるまちである。
石塚裕之
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