茅ヶ崎版 掲載号:2021年12月3日号 エリアトップへ

円蔵に本社 (株)由紀精密 茅ヶ崎から「宇宙」へ飛躍 超小型人工衛星のエンジンを開発

経済

掲載号:2021年12月3日号

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スラスタ開発を手掛けた松本幸子さんと、高田翔丸さん(右)
スラスタ開発を手掛けた松本幸子さんと、高田翔丸さん(右)

 金属の精密加工での実績を持つ(株)由紀精密(円蔵・永松 純取締役社長)はこのほど、名古屋市の高砂電気工業(株)とタッグを組み、超小型人工衛星用の推進エンジン(スラスタ)の開発を発表した。宇宙開発事業の世界では、異例の速さとなる約2年半で、完成までこぎつけたのは、20・30代の若手技術者2人。超小型衛星の運用が増加する中、国内外で注目を集めるスラスタの開発秘話について聞いた。

 1950年に創業した由紀精密は、ネジ製造をはじめ、公衆電話の金属部品が主力だったが、携帯電話の普及とともに需要が激減。経営が厳しくなるも、3代目の大坪正人代表取締役が、航空宇宙や医療機器などの先端分野にシフトしたことで飛躍的に成長を遂げた。その快進撃は、小説『下町ロケット』を地で行く精鋭の金属メーカーだ。

未知の分野を手探りで

 今回、由紀精密が手掛けた「スラスタ」とは、原理的にはロケットのエンジンに相当するもので、衛星の位置や姿勢の制御、軌道の維持などに使用される。

 2018年春、開発プロジェクトメンバーに任命されたのは、松本幸子さん(35)と高田翔丸さん(29)。松本さんは半導体製造装置の設計、高田さんも機械設計が専門だったため、宇宙工学は未知の世界だ。2人は「『スラスタの開発とは?』という状況だった。また、過酷なプレゼンの末、国立の研究機構からの資金援助を受けるための、「3年以内の開発」という厳しい条件に加えて、「低毒性の燃料の採用」を目指すことに。

 一見、無謀にも見える挑戦だったが、2人の若き技術者は至って冷静だった。「まずは市場調査。ニーズや仕様、設計について徹底的にリサーチしました。幸いにも会社としては、宇宙産業での知見や人脈が蓄積されていたので、社内の設計者をはじめ、JAXAや専門家に相談しながら進めることができました」と松本さん。

 入念なリサーチの結果、2人が燃料に選んだのは「過酸化水素水」。従来の燃料は人体に有害で、取扱いには厳重な防護服が不可欠だが、過酸化水素水であれば、安全かつ、取扱いも容易に。運用や整備をはじめ、コスト面でもメリットは大きい。入手しやすいのも決め手になったという。

地道な努力の積み重ね

 また、カギとなったのが、過酸化水素水と反応させる「触媒」の選定だ。これについては企業秘密だが、「材質や成分としては世の中に存在しているものを、求められる仕様になるように微調整を行った」と明かす。

 2人とも有識者に聞いたり、文献を調べ上げたりと、論理的に積み上げて確実な手段を取るタイプ。幅広い知識の蓄積と、そこから引き出されるアイデアが、偉業につながった。「大きなドラマはなく、小さな山を地続きで何度も乗り越えてきた感じです」

 今回、確かな技術力を製品として形にする開発となったが、「実用」までの壁は厚いという。「宇宙業界では実績が問われます。このスラスタを一つの武器に、参入できるチャンスがあれば」

 茅ヶ崎から「宇宙」への飛躍を見据える。

左先端ノズルからガスが噴射、中央部に触媒を搭載
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