文教大学の北西、里山の風景が広がる市内行谷(なめがや)に、週末だけ不定期でオープンする料理工房がある。持ち帰り専門で、手の込んだ創作料理やパン、スイーツなどは「量り売り」。購入はタッパーや容器持参が条件だ。”里山の気まぐれキッチン”というだけで興味をそそられるのに、さらに目を引くのはシェフ夫妻の異色の経歴と活動。「料理を通して、少しでも世界を変えられたら」―。鎌倉の人気ビストロをあっさり閉め、食品ロスや子どもの貧困、味覚障害など食の問題に、自由なスタイルで取り組む山内裕樹さん(42)と由美子さん(43)に迫った。
眼前の田んぼでは、青苗が心地よさそうに風にそよぎ、時折キジやウシガエルの声が響き渡る。こんなのどかな地に構えた自宅兼工房の名は『ランティミテ・ノマド』。フランス語で「親近感・遊牧民」を意味する通り、山内夫妻が気さくに出迎える。
そこへふらりと「ジャガイモのおすそ分け」と掘りたてを持った若手の有機農家が現れ、「じゃあ、かわりにタルト持っていって」というやり取りが繰り広げられる。「売り方、買い方次第でごみもフードロスも減らすことができる。地元の生産者がいいものを作りそれを家庭や料理人が買い、美味しく無駄なく使い切って残さず食べる。このシンプルな循環でみんなを幸せにしたい」
転機はモロッコで見た「貧困」
工房の軒先では、香味野菜やエキゾチックなスパイス、焼きたてパンの香りが複雑に絡み合い、まるで外国を訪れたよう。それもそのはず、裕樹さんはフランスで腕を磨いた後、ベトナム料理やイタリアン、カリフォルニア料理、和食を経てさらにはモロッコ初の日本料理店で3年間、料理長を務め上げた経験も。
この時、現地で貧困を目の当たりにしたことが転機になった。子どもたちが物乞いをし、満足に食べられない現実に衝撃を受けた。また、日本の子どもも7人に1人が貧困だと知り、鎌倉で独立後も活動への思いに突き動かされた。
一方で、いち個人ができることには限界があり、活動すればするほど歯痒さも。「極論だけれど今回のコロナの自粛のように経済活動を控えて、最小限食べていける生活をすれば、環境への負荷は少なくなる」
シンプルで身軽に
こうして辿り着いたのが、いまのシンプルな生活であり、市内小学校や各所で行う料理教室だ。「自分たちには同じ場所で待っているよりもノマド(遊牧民)のように自由に動ける身軽さが合っていた」と目を細める。
子ども向けの教室では味覚や食品ロスなどの難しいテーマも、興味を引く方法で分かりやすく伝えている。そのユニークな手法は、スパイスを使った五味の解説や、塩なしハンバーガーづくりを通じた味覚の授業、タジン鍋を利用した科学や調理のしくみ、音楽に合わせて形の悪い野菜を煮込む「ディスコスープ」など多岐にわたる。
「子どもたちから学ぶことも多い。昨年も真剣にいのちの話をしたら、1年生にもしっかり伝わっていて感動した。広く薄くでは十分に伝わらない。地域密着の最小単位で狭く濃く伝えていく方が実りになる」
最後に「衛生上・経営上のこととは言え、自粛による各地のテイクアウトで、大量のプラごみが出てしまったことが残念。海・畑の生物や微生物を通じて、いのちをつないでいることを料理人が覚悟を持って見直さないと」と力を込めた。
■工房オープン日やアクセスはフェイスブック【URL】https://www.facebook.com/lintimite.kamakura/で検索、または【メール】l.intimite.kamakura@gmail.comへ問い合わせ。
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