小惑星に2月22日に着陸し、世界2例目となる表面物質採取を成功させた小惑星探査機「はやぶさ2」。この一大プロジェクトを成功につなげた立役者が、茅ヶ崎に住んでいる。通信方法を開発したJAXA宇宙科学研究所・教授の山田隆弘さん(63)だ。
はやぶさ2が向かった小惑星「リュウグウ」は、地球から約2億8千万Kmかなたに位置する。宇宙に出た探査機にとって、通信機器は命綱。機体制御や標本採取ポイントの選定、データ解析など、正確でスピーディーな通信環境が求められる。
山田さんの仕事は情報伝達、データ転送の仕組み作り、いわば「はやぶさ2」の“言葉作り”だ。情報保持などを目的に、通信方法は探査機や人工衛星ごとに異なっている。「はやぶさ2」の通信方法は元々前身となる「はやぶさ」のために開発したもので、金星探査機「あかつき」でも採用されている。日本のほか、海外のアンテナも使用することで、地球の自転に関係なく24時間の通信を可能としている。
始まりは「宇宙もつまらなくはないだろう」
東海岸南生まれ。茅ヶ崎小学校卒。語学好きの父の影響で、小学生からスペイン語を独学で学び始め、中学で英語、高校でフランス語、大学ではドイツ語を習得した。また根っからの本好きで、推理小説から専門書まで図書室の本は片端から読破。「本は無限の世界を教えてくれる。当時の私にとって学校の授業より面白かった」とにやり。
「情報の伝わる仕組みが興味深い」と、東京大学・大学院ではソフトウェアを専攻。電気信号の波状パターンの設計や受信システムの構築に打ち込む中、恩師から誘われたのが「文部省宇宙科学研究所」。実は、宇宙への強い関心があるわけではなかった。「宇宙の研究もつまらなくはないだろう、ぐらいの気持ちでしたね」と笑う。
研究続け40年定年間近の感慨
以降、研究を続け約40年、今年3月に定年を迎える。研究生活を振り返り、「最先端分野だけあって、尊敬できる、熱心で、真面目な人たちが多く集まっていた。NASAで働いた時は、国籍問わず、一緒に研究するのは楽しかった」とほほ笑みつつ、「最後はなまじ上の立場についてしまったから、研究外の雑務が大変で」と苦笑する。
「はやぶさ2」をはじめ、自身の研究が採用された探査機が実際に宇宙で動いている姿を見た時は、“胸にくるもの”があった。「この道も悪くはなかったんじゃないかって」と照れ臭そうに顎を撫でる。
これからの相手は「言葉の宇宙」
定年後は茅ヶ崎の自宅で、新たに「必ず正しく伝わる文章のルール構築」に挑む予定だ。設計指示書を作成し外注した際、人工衛星という一分のミスも許されないはずの研究であっても、正しく伝わらないことがあることなどから着想を得た。「母国語を問わず、わかりやすい文章を作れる、読み取れるルールが定義できれば大幅な時間短縮、経費削減になる」と熱を込める。
マッキントッシュ派のコーヒー党。服は「丈夫で長持ち」と海外出張時に購入する。移動は自転車。研究室で流す曲は、カーペンターズからきゃりーぱみゅぱみゅまで実に幅広い。「研究は体が資本。座りっぱなしは腰が痛くなっちゃうから」と休日には自宅そばの海岸のランニングや、ジムのヨガなどで汗を流す。「これからは、『言葉の宇宙』が研究相手。時間がいくらあっても足りない」と白い歯を見せた。
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