第62回「農民文学賞」を受賞した 目黒 広一(ひろいち)さん 西八幡在住 73歳
幸せ願う「記憶の記録者」
○…農村や農民の生活を題材にした「日本農民文学」の秀作をたたえる歴史ある文学賞。過去に2回、最終候補に残ったことはあったが、受賞は今回が初めて。「もともと口で語るより、ペンに頼る方が性に合った」ことから本格的に執筆を始めて3年あまり、賞を目標としてきたわけではないが「自分以外の人たちに作品が伝わったのかなと思うと、それは励みになりますね」と喜ぶ。
○…受賞した短編小説「なだの海の向こうに」の舞台は、郷里である福島県南会津郡の雪深い山間の村がモチーフ。主人公のヒロシとハナコの恋心と別離、敗戦を背景とした苦悩を通じて自己形成していく過程を描いた。「私の昭和は戦争が色濃く残っていました」。戦地から帰れなかった人、たくましく生きようとする遺された人たち、皆に悲しみ、先行きの見えない不安があり、それらの象徴として、方言の「なだ」をタイトルに添えた。登場人物それぞれの涙(なだ)を4万字で描き切った時、ある思いが去来した。「人生の砂時計に残りの砂は少ない。ならば、砂時計を逆さまにしていきたい」
○…教員を志し上京、平塚市や二宮町の小学校で校長を務め、現在は西八幡で妻と暮らす。若いころから6千字程度の小説や随筆を執筆していた。「書き上げた時は、登山で頂上にたどり着いた時と似ている」。その感覚がたまらなかった。子供は自立、古希を迎え精神的に身軽になったといい、執筆に費やす時間が増えた。自室で原稿用紙に向き合う時間は、人生を振り返る豊かなひと時だ。
○…今、砂時計を逆さまにしようと思うのは「多くの記憶を反芻しながら、次の世代に『こういう時代があった』というものを残していきたいから」。作家ではなく「記憶の記録者」としてペンを握り、幸せあふれる世を願う。
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