2012年 新春特別企画 行政と連携密に「市民の命守る」 小田原医師会・横田俊一郎会長インタビュー
3月11日に発生した東日本大震災は、住民の命と健康を守る医師にとっても、かつてない厳しい局面に立たされた。非常時に医師はどの様に動いたのか、動くべきなのか。本紙では震災の影響や今後の課題解決などについて小田原医師会の横田俊一郎会長にインタビューを行った。
万が一に備え衛星電話を検討
――東日本大震災の日は、小田原でも震度5強を記録しました。小田原医師会では当日、どのような対応をされましたか。
「被害の確認です。一斉に電話連絡を取って、診療所の被害の有無を確認しました。医療機器が倒れたのが数件あった程度で、生死に関わるような大きな被害はありませんでした」
――緊急時のマニュアルのようなものはあるのですか。
「小田原医師会には災害対策委員会があって、救護のための災害マニュアルを数年に一度、改定しています。今回の地震では、携帯電話が繋がりにくいなど課題も見つかりました。震災後、災害時優先電話が効果的であることが解ったので、携帯電話を優先電話に出来るサービスを導入しました。 また、被災地の仙台などでは停電や電話の不通で、津波などの情報が得られなかったそうです。衛星電話は、電源さえあれば通話が出来ることを知り、高額ではありますが、小田原はいつ大きな地震が起きてもおかしくない、と言われていますので、万が一に備え、会で購入を検討しています」
――医師会の被災地支援はどの様なものがありましたか。
「日本医師会は震災の翌日に緊急チームを編成して現地へ向かいました。小田原医師会では3月中に岩手・宮城・福島の被災3県に義援金を送りました。また当医師会から数名の医師が被災地へ赴き、一般の診療や訪問治療などに従事していただきました。また4月には医師会合唱団がチャリティー公演を行いました」
普段服用の薬家族で認識を
――災害などの非常時も含めて、日常生活で市民と医師との関係作りで何か留意することはありますか。
「特に被災地の沿岸部で問題だったのは、病院が津波の被害に遭い、診療録が残っていないことだったそうです。救援物資でたくさんの医薬品が届けられても、実際に服用の可否がわからないという事態が続いたそうです。そのため、普段からかかりつけ医を持つと共に、処方されている薬について備忘録などを用意しておく、家族にも認識しておいてもらうといった対策が必要だと思います。
今回の震災を機に、津波のことなども含めて、行政とも連携をとっていきたいと考えています」
――地震は子どもたちにも大きな影響を与えていますか。
「そうですね。いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)が懸念されます。
小田原でも震災後、お母さんと一緒じゃないと夜眠れないという話は外来で聞きましたがすぐに治る子が多かったです。テレビのニュースなどで、津波の映像を何度も流していますが、子どもたちにとってはあまりよくないのではないかと思っています」
――震災が残した教訓で、今後活かしていけそうなことはありますか。
「防災対策などは行政が主導で行うことが多いのですが、行政との連絡を密に取って、医師会として出来ることをしていきたいと考えています。
例えば、現在小学校には薬の備蓄がされているのですが、期限が過ぎるごとに廃棄しています。そうではなく、どの様な薬がどのくらい備蓄されているのかを管理し、期限が来る前に上手に使えるような工夫も必要だと思います」
――子どもたちの影響でいえば、福島の原発事故による放射線の被ばくについても心配です。
「皆さん不安だと思います。世界的にみても、少ない放射線量が長期間排出されるといった状況にさらされる経験がないので、誰にもわからないのが現状です。実際に食べ物ではっきりと健康に被害が出るかなど解っていない部分も多いのです。また小さなお子さんを持つ親にとっては「心配ない」という意見と「危険」と言う意見のどちらを信用してよいかわからないというのが、さらに問題を難しくしているのだと思います。長期間の監視が必要ですね」
看護専門学校は2013年着工予定
――新しい看護専門学校がいよいよ本格的に動き出しますね。
「はい。移転場所は久野の古墳群に当たることから埋蔵文化財の調査が必要なので、今年1月から調査に入り、半年ほどかかる予定です。スケジュールとしては基本設計から実施設計と進み、順調に進めば平成25年1月工事に着工し、25年中に竣工、平成26年4月開校の予定です。建物には看護学校のほか、医師会事務局、地域医療連携室、産業保健センター、市の福祉施設なども入る予定です。市立病院と隣接する立地から連携もしやすく、相乗効果も期待できます。地域にとっても大きなメリットがあると思います」
――2012年はどの様な年にしたいですか。
「日本では世界最高水準の医療を誰でもいつでも受けることが出来ます。しかし、この世界一の医療制度が、受診時定額負担やTPP参加による自由診療の解禁によって壊れ、アメリカ的な自己責任と商業主義が医療の世界に持ち込まれることに強い懸念を抱いています。大きな問題として市民の皆さまにも考えていただきたいと思っています。
一方、小田原医師会のエリアでは、がん検診の受診率が低いのが現状です。特に子宮けいがんなどは早期発見が容易で進行も遅いので、検診を受けていれば子宮摘出などの事態になることも少ないので、ぜひ検診を受診して欲しいと思います。私どもも市民向けの講演会を開くなど医師会を身近に感じてもらえるよう、会員全員で考えて皆が健康に気をつけてもらえるようにしていきたいです。私たち小田原医師会は、小田原市民の健康を守る使命を担っているのですから」
――どうもありがとうございました。
|
|
|
|
|
|