白寿を祝い11月11日に演奏会を開催する 杵屋(きねや)響泉(きょうせん)さん 市内栄町在住 99歳
白寿でなお 粋に華やぐ
○…歌舞伎音楽として300年以上の伝統をもち、明治以降は独立した演奏形態としても発達した長唄。代々続く宗家に生まれ、長唄一筋の人生。女流ということで歌舞伎などの表舞台には決して立つことがないが、「男性だったら人間国宝」と称される偉人だ。
○…築地生まれならではの、さっぱりとした江戸っ子気質。弾んだ声と穏やかな笑顔が印象的で、花柳界の華やぎを感じる。小柄な体からは想像がつかないが、とんかつと天ぷらが大好きで、何でも残さずしっかり食べるのだとか。お孫さんと一緒にアイドルグループの「嵐」を応援し、「二宮くんがいい」とにっこり。一人で買い物に出かけるものだから、娘さんやお弟子さんに心配されてしまうのだという。
○…そんなお茶目で親しみやすい女性だが、父親の五代目杵屋勘五郎から厳しい手ほどきを受け、幼少時代から稽古に明け暮れた。「何でこんな家に生まれたのだろうって、逃げ出したくなりました」と懐かしむ。人生を変えたのは小田原出身の詩人、木村孝さんとの結婚生活だった。文学の話に花を咲かすご主人に、お酌しながら目を輝かせた。「自分が知らなかった世界。夫のおかげで見聞が広がり、自分が磨かれました」。長唄への意識も変わり、曲の意味を調べることで情熱が増していった。いまでも小説を読み、新聞の隅々まで目を通すのが日課。ご主人が亡くなり15年が経つが、影響は色あせることなく、二人の時間が鮮明に残っている。
○…数えで白寿を迎え、最高齢の長唄三味線奏者として第一線で活躍している。12歳から師匠として約300人に教授し、伝統を守り続けてきた。白寿を祝い小田原で開催される演奏会には、70余年の付き合いとなるお弟子さんも出演。舞台を楽しみにしつつ他界したお弟子さんを偲び、自ら代わりに演奏する。粋で人情深い江戸っ子は、小田原の大切な宝物だ。
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