小田原署小林巡査長 「経験生かしたい」 被災地・宮城から帰任
東日本大震災で被災した宮城県に特別出向していた小田原警察署地域第一課の小林勇一巡査長(28)が、1年2カ月の任期を終え帰任した。
神奈川県警は昨年2月1日から、被害が甚大だった岩手・宮城・福島の3県に65人の警察官を派遣。今年3月31日に30人が任期を終え、神奈川県に帰ってきた。4月1日に神奈川県警本部で行われた帰任式に、小林巡査長も出席した。久我英一本部長は特別出向していた警察官たちを労い、神奈川での勤務に励むようにと訓示。小林巡査長は「被災地で勤務してきた経験を生かして、小田原での安全・安心を守っていきたい」と意気込みを話した。
なお、今年度も引き続き神奈川県警から宮城県に5人、福島県に29人が継続出向し、被災地での治安確保に従事している。
故郷で得た教訓を胸に
小林巡査長は宮城県仙台市出身。震災から2カ月がたった2011年5月末頃、3日間の休暇をもらい実家からほど近い荒浜・深沼海岸を訪れた。「静かな漁港だったのに、街並みがなくなりがれきだけになっていた」。変わり果てた風景にショックを受け、もどかしい思いを抱える中、当時所属していた保土ケ谷警察署の署長から特別出向の話を聞き志願した。
宮城県での配属は、沿岸部の名取市・岩沼市を管轄する岩沼署。地域第1班特別警ら係としてパトロールや仮設住宅の巡回、住民の意見・要望の聞き取りにあたった。被災した人にどう接したらいいか…不安もあったが「思いのほか明るく、気さくに接してくれた」と当時の様子を振り返る。津波で家族を失った人も多くいたが、仮設住宅の集会所には自然と人が集まり、お茶を飲んで笑いあっていた
「沈んでいても仕方ない、という気持ちだったのかもしれません」と表情を硬くする。仲良くなった高齢の女性から「目の前で周りの家が全て流されるのを見た」「夜はあちこちで火の手があがり、翌日家族と一緒に救助された」と生々しい証言を聞き衝撃を受けた。
一方で「震災時(被災地に)いなかった」が故の「温度差」を感じることも。110番通報で出動し酔っ払って暴れる男性を止めた時、神奈川県警の制服を見て「お前らに俺たちの気持ちがわかるわけない」と怒鳴られた。「何も言えないですよね」と視線を落とす。震災から2年が経ち現地は少しずつ落ち着きを取り戻しているが、未だに公営住宅建設のめどが立たず、仮設に住む人たちに疲れが見え始めているという。
「1人ひとりの意識大切」防災・減災へ
岩沼署管内では行方不明者を含め1000人以上が犠牲になっている。遺体は火葬され、捜査官の似顔絵で身元が判明するケースもあった。署員も6人が殉職した。「家族が流された署員もいる。津波が来るのがわかっていても連絡できなかったとも聞いた。仲間が遺体であがってくる辛さははかり知れない」と瞳を曇らせた。
小林巡査長は今回の経験で「震災への考え方が大きく変わった」と話す。海が近く平地の小田原ではどれほどの被害が起きるのか。「実際に起きたら自分ならどうするか、改めて考えさせられた」という。「関東でも地震が起きるといわれている。1人ひとりが日頃から考えていれば被害を減らせると思う」と表情を引き締めた。
取材にこたえる小林巡査長
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