めぐり逢いに乾杯 72歳 長谷川 ◎子(ようこ)さん
駅東口の煌々と光が灯った居酒屋「つぼ八」の店内で、一般客に紛れて日本酒を味わう女性がいる。店主・長谷川◎子さんだ。
常連客が集うテーブルに混ざり、会話に花を咲かせる。店内を歩けば「おかあちゃん」「◎子ちゃん」と声がかかる。早めに来店したお客さんからは、携帯電話で出勤を催促されることもあるという。「お店にいるときが一番幸せ」と語り、70歳を超えても皆勤賞だ。
そんな彼女の人生は、まさに波乱万丈。2歳で父親を亡くし、家庭は生活が苦しく高校入学時に叔母にひきとられた。しかし、その叔母もすぐに他界、再び実母のいる小田原へと戻ってきた。生きるべく10代の頃からバリバリ働き、家族にも恵まれた。
そして37年前、旅先の北海道で見たつぼ八に魅かれ、小田原でのれんを掲げることに。その際も、知人が1億円を出資してくれたおかげで、開業することができた。「多くの苦境を経験して、人のすばらしさを知った。すべてはめぐり逢い」と振り返る。娘も店を手伝い、スタッフは10年選手がほとんど。ファミリー客には、子守りを買って出ることでゆっくり飲んでもらう。35年間務める店長は「とにかく面倒見がいい。だから人も集まるんでしょう」と話す。
日々笑いの絶えない店内だが、「まだ成功とは言えない。まわりの人がいい人生を送るために面倒みてあげなきゃ」
◎はりっしんべんに容