木の香に満ちた厳かな空間に変わりつつある天守閣4階で黙々と作業をする、大工の渡邊大蔵(だいぞう)さん(47)。
山梨生まれの小田原育ち。千代小・中、吉田島農林高校(現・吉田島総合高)の普通科を卒業。専門学校で電子工学を学び、先に修業をしていた兄の後を追うように、20歳で大工の門を叩く。町場の大工とは手がける仕事が異なる宮大工に、長く憧れを抱いていた。
2年前、市内に残る歴史的建造物の保全や活用に必要な修復技術と人材育成を目的とした、小田原職人学校講座への参加を決めたのも、宮大工一本で生きている職人に「会って話を聞いてみたかった」から。
今回の摩利支天像空間再現事業には、使う材はもちろん、それを提供する山主、製材まで”地元”があふれている。それぞれがその道のプロであり、林業にも、今回の事業にもひとかたならぬ想いを持つ。材はなにかあると替えがきかない。プレッシャーはひしひしと感じるが「携わった人たちの気持ちに応えたい」、その一心。
16歳で手に入れたヤマハのバイクにまたがりサーキットを疾走していたが19歳で離れる。今は「ハーレーに乗ってみたいなあ」とにっこり。自宅で楽しむフランス産のワインと、「確たる理由がなくて説明しづらいのだけれど」法隆寺が好き。口数は多くないが、にじみ出る笑顔と、ぽつりぽつりと繰り出す話が後を引く。