3月12日から全国上映している『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』。話題作を生み出した小田原出身の作家・夢枕獏さん(65)の横顔に迫った。
「想像を超える忙しさ」。公開直前の3月上旬は、映画のプロモーションや雑誌の連載執筆を抱え全国を飛び回った。「アイデアはあと100ぐらいある。死ぬまでに使い切れないかな」と語り、多忙な中にも充実感が漂う。
20年以上前に世に放った小説『神々の山嶺』は、23歳で訪れたヒマラヤ山脈が題材になっている。幼い頃から好きだった『西遊記』にちなんだ旅行。「エヴェレストは地球で最初に陽があたる場所。いい映画です」と著書の映像化に何度も目を拭った。
生まれ育った小田原に今も居を構え、1年の半分は地元で過ごす。「風光明媚な故郷。食事もいろんなお店に行く」といい、エネルギーを養っている。
原稿はどこでも書ける。ヒマラヤのテントの中、カナダのユーコン川沿いの石の上、移動中の電車で…。手書きでアイデアを形にしていく。「休みなく書いている。脳は筋肉と同じで、さぼるとなかなか元に戻らないから」。26歳の作家デビュー以来、多いときには月に原稿用紙900枚分を執筆するなど、物書きとして走り続けてきた。
還暦を前に、人生の休憩をとろうとも思った。趣味の釣りに明け暮れ、原稿はちょっとだけ、と。しかし、「結局ダメ。その時覚悟を決めたんです。体が動く限り書き続けようと」。