Jリーグの湘南ベルマーレは11月9日、酒匂小・酒匂中出身の鈴木国友さん(桐蔭横浜大学4年)の入団内定を発表した。大洋ホエールズで活躍した田代富雄さんなどのプロ野球選手も生んだ酒匂地区では、少年ソフトボールや少年サッカーをはじめ、おだわら駅伝や小田原市民総合体育大会など、あらゆるスポーツで活躍が目立つ。その背景を探った。
酒匂小学校の校長室に飾られた1枚の年季が入った賞状。酒匂尋常高等小学校だった戦前の1937年、「体操優良校」として大日本体操連盟から表彰されたものだ。 「旧制中学の先生が器械体操の指導にあたるなど、とにかく体育の授業が充実していた記憶がある」と振り返るのは、当時児童として在籍していた譲原脩三さん(88)。そんな様子は研究授業の対象となり、42年には同校で体練科発表会が開かれた。訪れた教員の数は、関東一円から800人以上。酒匂小の前校長で市教育研究所長を務める栁下正祐さん(62)によれば通常は多くても200人程度で、「驚異的」というその数字からも同校の体育指導に対する関心度の高さがうかがえる。
では、なぜ体育の授業に力を入れていたのか。要因のひとつに考えられるのが同校の地域性だ。学校の特色とは地域の実態を反映させて生まれるものであるため、栁下さんは「活気ある漁師町だったこともあり、あふれるエネルギーを教育現場に生かす術を考えた時、それが体育だったのではないか」と推測する。
受け継がれる風土
69回の歴史をもつ小田原市民総合体育大会で、酒匂地区の優勝回数はトップの35回。新春に開催される「おだわら駅伝」の地区対抗の部では、酒匂が10連覇中だ。
駅伝や少年ソフトボールチーム「酒匂ブルーウェーブ」で監督を務める加藤学さん(53)は、強さの秘訣を「地域にスポーツ文化が根付いていること」と話す。ソフトボールでは入学シーズン前になると選手の保護者が幼稚園に出向いて勧誘のビラを配り、体験会を開催。駅伝はシーズンのみならず、日頃からSNSを通じて選手間で交流を図り、怪我などの悩みにはすぐにアドバイスが返される。練習には正選手以外も積極的に参加し、打ち上げでは自然な世代間交流も生まれている。
戦前から盛んだった体育教育と、活気あふれる漁師町ならではのエネルギーが生んだ「体育の街」。その風土は今も脈々と受け継がれている。同小の穗坂明範校長は、市民ボランティアにより酒匂に昨年開設された「子ども食堂」を例に、「1歩、2歩と、先に進んでいこうという意識が強い地域。そんなことも背景にあるのではないか」と話していた。