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西湘・小田原で一一七周年 水野浩理事長・学校長に聞く 学園に根づく二宮尊徳の「報徳四訓」 学校法人新名学園 旭丘高等学校

掲載号:2019年1月1日号

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創立者新名百刀女史像の前に立つ水野浩理事長・学校長
創立者新名百刀女史像の前に立つ水野浩理事長・学校長

平成から新元号へ日中高校生交流での学び

――新元号の4年目となる西暦2022年には120周年を迎えます。

 「「平成」の由来は中国の歴史書である『尚書』(しょうしょ)の「地平天成」です。本校では、創立110周年記念事業として始まった日中高校生交流で、生徒とともに中国の西安碑林博物館を訪れました。その第一室に存置されている石刻『開成石経』(かいせいせっけい)に収められた『尚書』大禹謨(だいうぼ)の中に中国古代夏王朝の禹王の功績にかかわって用いられた「地平天成」(地上はおだやかに治まり、天も時節が順調にめぐる)の文字を読み取った経験があります」

――生徒たちの感想は?

 「平成と共に明治・大正・昭和など日本の元号の源流が中国の碑文にあることに驚きの声をあげていました。かつては「幻の王国」とも言われた夏王朝は、発掘によって実在が確かめられています。その初代禹王は治水の神様とも称えられ、西安碑林博物館の第四室にはその功績を讃えたとされる『岣嶁碑』(こうろうひ)が展示され、日本の酒匂川上流にも、治水神としての禹王を祀る文命『東堤碑』『西堤碑』が建てられています」

――日中高校生交流は、両国の生徒に様々な学びの機会となってきたのですね。

 「生徒が最も感銘を受けるのは、人との触れ合いです。【最初に中国に行くと聞いたときは、正直不安でした。新聞やニュース番組を見ていると大気汚染や食品衛生など、悪い報道ばかりでした。中国に着き、安陽のホームステイ先の彼女と初めて会った時、彼女は戸惑いながらも優しく微笑んで「よろしくお願いします」と英語で言ってくれました。中国の方の優しさを直接肌で感じ、私たちが今まで見ていた中国はほんの一部分で、中国全体が報道通りではないと分かりました。このような交流の機会が他の学校や地域でも増えることを願っています】」。

建学の精神と「報徳四訓」の教え

――旭丘の建学の精神は、二宮尊徳の「報徳四訓」を基本にしていると聞きます。

 新名百刀先生が教育方針として掲げたのが、尊徳の報徳四訓(至誠・勤労・分度・推譲)でした。「無くてはならぬ指折り仲間の一人となれ」という校訓にあるように、地域社会の要望に応えて良妻賢母型の「知と技の統一」に砕身すると同時に、社会的・精神的自立を促す教育を展開。そして、「一円融合」の哲学思想の下、今でいう差別と競争のない社会を築くために、尊徳の農村振興を目的とした捨て苗を集めて米を生産する農法、荒地を開墾し良田に変える手法に学び、「悪しきとて、ただ一すじに捨つるなよ、渋柿を見よ、甘干となる」という「正→反→合」の弁証法的な子ども観を唱え、子どもの発達と可能性に信を置く教育を実践しました。

 小田原の女性史研究家の宇佐美ミサ子先生は、新名学園に学んで後に教師となったある女性の言葉を伝えています。「百刀先生は報徳の教えを私たちによく話してくれました。手に職をつけることが、自活できる技です。そして、人々に分け与えることが必要なのです」と。校訓である報徳精神は、戦前は生徒手帳に記されていました」

――自立して得たものを社会に還元する「推譲」の重要性も説かれていた。

 「関東大震災では小田原も大きな被害を受けましたが、新名女学校も火災は免れたものの校舎が大破しました。その復興と学校再興にあたって、卒業生が婚家に遠慮しながら月々の小遣いを2年間ため、浄財として資金を拠出したという逸話も日頃からの「推譲」の教えが根付いていた証だと思われます。

 そうした分度から生じる剰余を社会公共のために使うという推譲の精神は現代では、私立学校の父母の経済的負担を軽減し、社会として子どもを育てる「無償教育」を目指して毎年全国規模で取り組まれる私学助成署名運動につながっています」

――尊徳思想に基づく建学の精神は今、どのような形で受け継がれているのでしょうか。

 「一つは、生活と教育の結合としての「普通・総合両科」での実践にあります。たとえば、「物づくり」の一つ陶芸の授業。粘土を割りロクロを回し電気釜を使って陶器を作ります。また、学校農園を利用した農業の授業では無農薬野菜を作り、正しい「食」のあり方を学びます。森林学習では「里山再生」を目指して学校林を伐採。卒業記念樹の植栽などをします。これらの総合学習は「自然と学校との共生」「生活と教育との融合」の実践そのものであり、根底には報徳四訓の「勤労」の精神が基盤にあるものです。

 総合学科では、この「勤労」と地域づくり、進路選択を目指して1年間、週1回のインターンシップを実施しています。小田原を中心とした地場産業や中小企業、公共施設等で職場の先輩や社会人からご指導をいただき職業に関する知識や技能、技術を習得しています。これもまた、尊徳の唱えた「一円融合」の一例であり、今日の「経済と道徳の結合」の精神にも通じるものだと思います」

――旭丘の教育には、持って生まれた天分と、教育する天分とをそれぞれどう生かすかという実践、まさに「分度」の実践にも通じるものがあります。

 「旭丘の「全学協議会」は、「分度」の実践の一例です。この会の名称は、正式名称は「新名学園旭丘高等学校のよりよい学校づくりを目指す生徒・父母・教職員・同窓生・学園による全学協議会」で、2004年に発足しました。特徴は、生徒会がこの会の他の構成メンバーと対等の立場で意見表明をし、教育づくりや学校運営に対し、共同で関与、参画する点にあります。これは、この会の構成メンバーの「入るを図って出ずるを制する」国の税金の公正な配分に通ずる「分度」の実践であり、「一円融合」の具体化であると思います」

「足元からのグローバル教育」その新たな展開

――110周年を機に位置付けられた「グローバル教育」はどのような進展を?

 「“Think Globally,Act Locally”で、足元からのグローバル教育を押し進めてきました。2014年に姉妹校提携を結んだ、中国の西安外国語大学附属西安外国語学校と安陽市開発区高級中学の2校には、これまで5回訪問しています。生徒会、演劇部、書道部、相撲部、吹奏楽部、剣道部、陸上競技部などの代表部員や、ヒップホップダンス世界大会出場生徒などが、日中高校生文化・スポーツ交流を実施。中国姉妹校の生徒たちも4回来日し、生徒会とPTA・父母懇談会による手作りの歓迎集会、同窓会による茶道体験、入学式への参列、さらに小田原市長表敬訪問など地域と結んだ交流を行ってきました。

 こうした相互訪問から始まった交流は、昨年3月の訪中の際、本校の教員が西安外国語学校の生徒を対象として行なう「公開研究授業」という形になりました。実施されたのは数学と理科の授業。数学では二次関数の範囲で、「1あたりの量から瞬間の変化を把握する微積分」へと数量の認識を形成していく授業で、班学習を大切にして生徒たち自身の討論と意見表明をていねいに創り出しています。高い学力レベルを持ち、受験的な勉強に慣れている中国の生徒たちにとって、こうした授業は新鮮なものだったようで、こんな感想を残しています。【数学では、公式を忘れてグループの皆さんと一緒に考えて、話し合いました。それはいいと思います。普段よく公式を覚えればいいと思って、ほかの可能性は考えませんでした。でも、先生の授業の時、わたしは公式を捨てて、自分で数字の出てくる規則を考えました。とても面白かったです】。同じように化学でも、自ら行った実験でこんな言葉を残しています。【私は自分の目で見て、自分の手で触って、不思議な実験を観察しました。その時、化学は面白いと思いました】」

――そうした交流の功績から、先生は河南省人民政府の「黄河友誼賞」を受賞されました。

 「昨年9月、アメリカや中国など各国8名の方々とともに、河南省鄭州市の迎賓館において賞状と金のメダルを授与されました。受賞にあたって評価されたのは、日中両国の架け橋となる未来の青年を育成する高校生文化・スポーツ交流活動と共に、姉妹校・安陽市開発区高級中学(高校)間の交流が、中国側からの日本の先進的な医療・福祉・観光などの技術を学びたいとの求めに答える地域間交流として発展していることに対してです。

 西安外国語学校とは昨年、中国から日本の大学に留学を希望する生徒たちのために新たな留学生制度を創造する「中日高校連携教育プロジェクト」の契約を交わしました。先ほど触れた公開研究授業も、共同でのカリキュラム開発を展望して行なわれました。さらに昨年12月には、安陽市開発区高級中学からも、同校内に国際部をつくり本校と連携して新たな留学生制度をつくりたいとの要望が寄せられました。

 西安外国語学校の正門の園庭に「啄玉」と標した石碑があります。どの子にも人間的な可能性があるという意味で、旭丘の建学の精神に通じる教育観が見られるものです。

 西安は「一帯一路」構想とシルクロードの出発点であります。この構想を担う人づくりに長期的な視野を持って力を入れていることが中国の優れた政策であり、私たちの交流もこうした未来展望と結んで発展させて行きたいと思っています。具体的には、老人福祉や医療系の分野などでインターンシップにも参加したいという中国の生徒たちの希望に応えるなど、更なる積極的なアプローチが考えられます」

人間形成の教育スポーツ分野の発展

――2014年策定の「新総合計画」では、どのような前進がありましたか。

 「2017年度から新しく「大学進学・スポーツクラス」が設置されました。スポーツ進学クラス1年生の言葉です。【私は久野・荻窪キャンパスのトレーニングルーム、ボルダリングウォール等の設備に感動し入学しました。中学より発展した授業や活動ができることにワクワクしています】」

――優秀な成績を残す生徒もいるとか。

 モンゴルから相撲の留学生2名が入学し、「心技体」の相撲道に励んでいます。昨年、チョイジルスレン君は8月の全国高校総体相撲の個人戦で、神奈川県勢初の準優勝。9月からの国体相撲少年男子の部にダライバートル君とともに神奈川県代表として出場し、団体戦でこちらも神奈川県勢初の準優勝を果たしました。

 一方で身体に関する学びを深める中で、スポーツ・健康・医療・福祉・幼児教育などの多様な分野に進路を定める生徒も出てきています」

創立120周年へさらなる飛躍を

――3年後の創立120周年に向け、今後の展開は。

 「新総合計画の完成へ向けての1年ととらえ、「生・性・政」の三つのセイを大切にした青年期教育に重点を置き、生徒の人間的成長と全面発達、社会的自立を力強く後押しする施策をさらに図っていきます。

 具体的には、新総合計画の一環として、第一校地の統合整備計画と共に、第二校地のグラウンドを人工芝化し、体育の授業と共に公式試合が出来る全天候型のサッカー場として使用できるようにするなどの総合整備を、校内建設委員会を設置して進めて行きます。地域立・市民立の学校像のもと、第1校地(城内キャンパス)をより都市の機能と結びついた施設として整備し、第2校地(久野・荻窪キャンパス)は、地域のスポーツ・文化と国際交流のセンターとして発展させていきます。

 生徒たちは昨年の文化祭で「いのち―未来に向けて手をつなごう」をテーマに掲げ、全国の自然災害からの復興に連帯し、被爆者の核廃絶への願いに寄り添う企画に取り組みました。そうした、多くの人びとの置かれた立場や心に寄り添う気持ちを持てることこそ、尊徳思想の実現につながる精神だと考えます。

 昨年3月、文部科学省が、4年後から実施される高等学校の新学習指導要領を告示しました。そこでは「主体的・対話的で深い学び」(=アクティブ・ラーニング)が提起されています。本校の生徒たちは、学校参加・社会参加を通して地域と日本、人類社会の課題を自らの生きる課題と結んで捉えています。そして、「技」と「知」、「観」を統一する学びを通して、歴史や社会の出来事を科学的に認識し、それをより良く変えていこうとする学習主体・実践主体としての形成が図られています。

 旭丘での教育活動を通じて生徒たちが未来を創る主権者となるよう、今年も新総合計画を、学校の財政基盤の確立と結んで力強く押し進めていきます」
 

(上)『尚書』・大禹謨 (下)文命東堤碑・酒匂川・大口。日中高校生交流。説明者:大脇良夫氏(治水神・禹王研究会会長)
(上)『尚書』・大禹謨 (下)文命東堤碑・酒匂川・大口。日中高校生交流。説明者:大脇良夫氏(治水神・禹王研究会会長)
「黄河友誼賞」受賞式に出席する水野理事長・学校長
「黄河友誼賞」受賞式に出席する水野理事長・学校長
心・技・体の相撲道に邁進する相撲部。チョイジルスレン君とダライバートル君(前列)は世界ジュニアでモンゴル代表として準優勝にも貢献した
心・技・体の相撲道に邁進する相撲部。チョイジルスレン君とダライバートル君(前列)は世界ジュニアでモンゴル代表として準優勝にも貢献した

学校法人新名学園旭丘高等学校

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