片浦小学校には市内唯一の金管バンドがある。37年続く活動で、現在4年生から6年生の児童全員が所属。しかし、楽器や資材の経年劣化は著しく、メンテナンスを繰り返した楽器は色が褪せる。それでも「いい演奏を届けたい」という子どもたちの思いはひときわ強い輝きを放っている。
「もう一度、ゆっくり。私の音をよく聴いてみて」―。相模湾を見下ろす高台にある片浦小の音楽室からは、さまざまな楽器の音色が響いていた。毎週火曜日の昼休みを使った「金管タイム」。この日は引退した6年生に変わり、3年生から5年生までの約50人が集まった。チューバ、トランペット、アルトホルン、ユーフォニアムなどの金管楽器や、大太鼓やグロッケンなどの打楽器など11種類を手に練習に励んでいる。
バンドの始まりは、1982年、当時5年生の担任だった坪谷俊昌さん(80)が「太鼓とトランペットだけの鼓笛では音楽のハーモニーがない。金管特有の響きの良さを知ってほしい」と声をかけたのがきっかけ。坪谷さん自身もフルートを演奏した経験があり、子どもたちにバンドを通じて音楽の素晴らしさを伝えたかった。
楽器を守り心を育てる
同校は1915年に開校。2012年4月に小規模特認校に認定され、市内全域から毎年15人ほどが入学。少人数クラスで学年を超えた縦割りの授業が行われている。生徒の分だけ楽器も必要だが、高価なものだと1台100万円を超えるのが金管楽器。繰り返しメンテナンスを行い、ボロボロになったベルトは保護者が一つ一つ補修する。なかには1台しかないものもあり、故障すると修理中は練習することもできない。それでも子どもたちは不平不満をこぼさないという。そこには「心を合わせること。すると楽器を大切にする心も育つ」という坪谷さんの教えが根付いている。
「リズムに合わせて、もっといい音が出せるから」と上級生が声をかける。パートごとにリーダーが音程やリズムについて指導し、チームをまとめていく。新4年生は初めて触る楽器に戸惑い、時に楽器の重さに腕をさする。同校の村松利美校長は、「賞を取ること以上に、上級生が下級生を指導し、生徒自身が道具や親、教員や地域の人とのかかわりを通じて成長を感じることが大切」と話す。生徒らは5月の北條五代祭りや敬老会、音楽会などに向けて猛練習している。