小田原駅東口から続く錦通りとダイヤ街がぶつかる角地に立つ松屋。1929(昭和4)年から街の変遷を見つめてきた化粧品店が来月、地域の再開発計画を機に90年の歴史に終止符をうつ。
和装小物を中心とした小間物屋として創業。戦後に資生堂のチェーン店としてスタートした。ちょうど日本では高度経済成長期が始まり、人々の暮らしにはオシャレにかける余裕も生まれた時期。これを反映するかのように、テレビでも化粧品のコマーシャルが続々と放映されるようになった。
「地域のお客様との絆を大事に、信頼され、選ばれるお店でありたい」――。3代目として継いだ現社長が掲げた行動指針は「感謝・親切・誠実」。単に商品を売るだけではなく、客に対する温かく親身な対応や美しさを引き出す提案が評判を呼び、女性のオアシスとして徐々にファンが増えていった。
スタッフとの会話を楽しみに家族に送迎を頼んでまで来店する客、親子3世代で通う客、「お店に飾って」と花を届けてくれる客。人間関係が希薄になったと叫ばれる現代社会にありながらも、店内には商売を超えた人と人の温かなつながりがあった。
店長の朝の日課は、客に出すお茶の準備。買い物ついでに世間話を楽しむ常連客も多く、こだわりの湯飲み茶わんに会話も弾んだ。
12月20日の閉店まであと1カ月。惜しむ声に「心が痛む」と後ろ髪を引かれつつ、最後まで笑顔で店に立つ。