第5回湘南国際マラソンハーフ一般男子の部で優勝した元・吉田島農林高校陸上部 柏木正嗣(まさし)さん (株)古川・アクアクララ湘南勤務 小田原市在住 28歳
天へ誓う、努力のランナー
○…「何が何でも勝つ。だから力を貸してほしい」。レース前日、墓前で誓いを立てて挑んだ戦いだった。ハーフの部が新設された今大会。「いつかできる子どもや孫へ誇れるように」初代王者の称号だけは、どうしても譲れなかった。仲間の声援を背に快走し、独走のまま一番にゴールテープを切った。「少しは親孝行できたかな」。安堵の表情で天を仰いだ。
○…小さな頃からスポーツの世界で何かと目立つ存在だった。プロを夢見て中1まで野球に熱中したが、ある日転機が訪れる。箱根駅伝で渡辺康幸(現早大駅伝監督)の激走に心を奪われ「心の底から走ってみたい」と新たな道を選んだ。そんな息子の心変わりを両親は黙って応援してくれたという。それからは陸上漬けの毎日。「誰よりも練習した」高3時には3千m障害で県を制し、大学への推薦入学も決まった。夢への階段は着実に続いていた。
○…その矢先、不幸な火事が一家を襲った。残されたのは家を空けていた妹と命からがら逃れた自分ひとり。突如家を失い、家族を失い…目の前が真っ暗になった。全く走ることが出来なくなり、僅か半年で大学を中退。小田原へ戻りバイトを転々とするだけの日々を送った。「どう生きるのか」。迷った末に辿り着いたのは亡き家族に向けた唯一の自己表現である”マラソン”。「もう一度走ろう」そう決めて迎えた最初のレースは今回と同じ、3年前の湘南国際マラソンだった。
○…恵まれた練習環境がない中で、雑誌片手に独学で練習に励む。仕事終わりに16Kmのロードワークをこなすのが日課だ。大舞台が終わった今「いずれはフルで華を咲かせたい。自分の走りで誰かを元気にできれば」と、早くも先を見据えている。自分のため、支えてくれる人たちのため、天から見守ってくれる家族のため―もう決して投げ出さない。次なる誓いを胸に、再び天を仰いだ。「ありがとう。もっと上にいくから」。
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