ポーラ美術館で展示されているピカソの「海辺の母子像」の絵の下層部に、制作当時の新聞紙が隠れていることがわかった。火星探査にも使われる技術を通じて判明した新事実で、学芸課の今井敬子さんが文字を手掛かりに新聞を特定した。
絵は13年前に東京文化財研究所の協力でエックス線調査がされ、隠れた絵がある事が分かっている。今回は下層の絵画をさらに明確にするために行われ、ワシントンナショナルギャラリーのジョン・デラニー博士が4月に来日。博士はハイパースペクトル・イメージングスキャナーを使い、新聞がある事を確認した。この技術はNASAが惑星の地表を調べるカメラにも使われている。
同美術館の今井敬子学芸課長(小田原市)も調査に加わった一人。新聞紙の文字を手掛かりにフランス国立図書館のデータを調べたところ、1902年発行の「ル・ジュルナル」紙と分かった。同紙には自身の展覧会の批評も掲載されており、愛読紙と言ってもいい紙面だった。今井さんは「最初はどういう事だろうと。100年後の発見に立ち会えたのは、日本にいながらデータ検索できた環境のおかげ」と振り返る。
新聞紙が貼り付けられていた理由は明らかではないが「海辺の母子像」を描く際かそれ以前に別の構図を描くために新聞紙を使って下層の絵を覆った可能性があり、まだ判別できない絵画が隠れている可能性があるという。当時のピカソはまだ若く、貧しい環境で描きたい絵も変化し、一度描いたキャンバスを再利用した例が多い。「海辺の母子像」の表面には、以前から絵画表現とは違う輪郭線の凸凹が確認されており、亀裂の間に別の色が見えていたという。絵は8月下旬まで展示され、その後パリのオルセー美術館で公開される。