―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第2回 作者/前野 博
(前回からのつづき)そのリボンが燃え、火の雨のようになり、八王子の町に小型焼夷弾が降り注いだのであった。人家に激突し、爆発し、閃光を発し、火を撒き散らした。勿論、逃げ惑う人々の頭の上にも降ってきた。B29爆撃機は、八王子の町に、六十七万七百五十本のM50焼夷弾を投下していったのである。火が火を呼び、合流し、旋風を巻き起こし、破壊的な大火災となった。町は火柱を噴き上げて燃え上がり、炎熱地獄の中を人々は逃げ惑ったのであった。
近所の家の塀が、バリバリと音を立てて燃え上がった。キミは、由江の手を握り、体を硬くした。足はすくんでしまっていた。
隣の家の防空壕の蓋が閉められた。
「キミちゃん、行くわよ!」
由江がキミの手を引っ張り、火の手が上がっていない浅川の方へ向かって駆け出した。背後の市街は、真っ赤な火炎に包まれ炎上していた。激しい雨音のような音を立て、焼夷弾が無数に落ちてきた。地上に激突して、閃光を発して爆発し、四方八方に火を噴き出した。
「危ない!」
由江がキミの体を抱くようにして、引き止めた。前方を走っていた若い男の背中に焼夷弾が直撃した。背負っていたリュックが燃え上がり、火玉が飛び散った。男ははじけるように地面に叩きつけられ、身動き一つしなかった。降下してきた焼夷弾が、男の背中で爆発したのであった。キミが一歩先に出ていれば、爆風と飛び散る火炎を直接浴びるところであった。由江の衣服や防空頭巾から白煙が立ちのぼっていた。
2.認知症
明るいのは嫌だと、キミは言う。
「外は、明るく晴れて気持ちがいいよ。山は紅葉で色づいてとてもきれいだ。雪を被った富士山も遠くに見えるよ」
隆は、カーテンを少し開けて、西の山並みを見た。
「苦しいよ!
苦しいよ!
何とかしておくれ」
いつものことであった。 〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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