横須賀・三浦版【6月6日(金)号】

ドブ板通り×海自横須賀 「潜水艦に会える街」発信 コラボ商品軸にスタンプラリー

 ドブ板通り商店街振興組合と海上自衛隊横須賀地方隊の潜水艦部隊「第2潜水隊群」は連携して「ドブサブFES!」と題したスタンプラリーを実施している。同部隊隊員らが食しているグルメメニュー「サブサンド」や「サブドック」を提供する店舗での飲食、物販店などでスタンプを集め、その数によって賞品が受け取れる。同組合は「潜水艦に会える街」をPRして、誘客につなげたい考えだ。

「潜水艦グルメ」発信地に

 今回の企画は、昨年3月に同部隊が「地域活性化に役立ててほしい」と同組合にレシピを提供し、商品化されたサブサンドの取り組みから続く第2弾。今回はさらなる販促と周知を図る狙いもあり、イベントを用意した。新たにホットドッグの「サブドッグ」も登場する。「サブ」の語源は潜水艦(サブマリン)に由来している。

 5月28日には、同部隊の中野聡群司令から販売店へ認定証と盾が手渡された。同組合の越川昌光理事長は「潜水艦グルメやミリタリーカルチャーの新たな発信地としてさらなる進化を遂げられた。今回の企画を通じてドブ板の魅力を知ってもらいたい」と期待感を示した。

16店舗を対象に

 初めて企画された今回のスタンプラリーは、ドブ板通り周辺の飲食店・物販店合わせて16店舗が対象。参加店舗で飲食や同部隊のオリジナルロゴを使ったグッズを購入するなどでスタンプを収集していく。3個以上集めると先着100人に「よこすか海軍カレー」のレトルト、6個以上では同50人にオリジナルトートバッグが進呈される。16個以上で「潜水艦お守り」と交換できるほか、潜水艦内での喫食体験が当たるキャンペーンに応募できる(先着10人)。

 同組合の一本和良副理事長は「護衛艦などがクローズアップされがちだが、横須賀を訪れた人からは『潜水艦もあったんだ』という声もよく聞く。潜水艦に会える街として周知を続け、コロナ禍以降客足が遠のいていたドブ板通りを再び盛り上げる機会になれば」と話している。

 スタンプラリーは7月31日(木)まで。詳細や問い合わせはドブイタステーション【電話】046・824・4917。

関東化成工業の代表取締役社長で三浦半島の学童野球大会をスポンサーする 宮崎 武士さん 横須賀市追浜東町在住 66歳

「全て野球が教えてくれた」

 ○…夏島グラウンドに整列した約200人の児童を前にして「全力プレー」の発破をかけた。横須賀市内で毎年開かれている「母と子のふれあいトスベースボール大会」の公式スポンサーとなった。ルールを簡素化して初心者の参加を歓迎。母親もチームに加わって一緒にプレーする一風変わった大会に興味を示し、名乗りを上げた。「横須賀から野球人口を増やして、将来の甲子園球児を送りこみたい」とエールを送る。

 ○…北海道室蘭市生まれ。父は社会人野球選手として富士製鉄(現・新日本製鉄)に勤務しており、引退を機に父の故郷である横須賀に移住した。自身も幼少期から野球に明け暮れた。「あまり裕福な家庭ではなく、野球しかすることがなかった。このスポーツには、本当に様々なことを教えてもらった」。高校・大学の野球部では先輩から理不尽な暴力を受けることもあったが、「絶対に同じことを後輩にしなかった。野球を一緒にする仲間だから」。集団心理に陥りがちな場面でも、人間としての基本を忘れなかった。

 ○…大学卒業後、トヨタ自動車のエンブレムを製造する関東化成工業に入社。営業部に配属され、トヨタと直接交渉する機会を任された。書道家が描いた初代スープラのエンブレムを実用化させるなど、現代にも残るデザインを売り込んだ。社長就任後すぐに新型コロナが猛威をふるい、工場ラインが止まることもあったが「できることをしよう」と美化活動に取り組んだ。「地域に愛され、従業員が誇れる会社」が目指す姿だ。

 ○…愛用の名刺入れは硬式ボールを模っている。野球への愛情と感謝は尽きない。「野球が教えてくれたこと」。次世代に伝えていくことが新たな役割だと自覚する。

こどもタウンニュースよこすか・みうら版 2025年夏号

横須賀・三浦市内の全小学校で配布される「こどもタウンニュース」を発行しました。 今号では、「よこすか海軍カレー」をイチからつくる体験プログラムを特集。そのほかチャッキラコをモチーフにした新たなお菓子「チャッキラ娘」、横須賀市長沢で開かれる落語会、夏休みに実施される子ども向けイベントの紹介など、盛りだくさんの内容!「こどもタウンニュース」を読んで横須賀・三浦をもっと楽しもう!



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神歯大「ジャカランダフェス」 あべ静江さん無料ライブ

 神奈川歯科大学(横須賀市稲岡町82)は6月8日(日)、ジャカランダの花を愛でる市民交流イベントを催す。

 南米原産のジャカランダは、「熱帯のサクラ」と称され、初夏に鮮やかな青紫色の花を咲かせる。オランダの画家のフェルメールが好んだ色にちなんで「フェルメールブルー」とも呼ばれている。今年の開花はやや遅れ気味で、花が咲く前の若葉を広げている状態だ(6月3日現在)。

 イベントは多彩な内容。「みずいろの手紙」のヒット曲で知られる歌手のあべ静江さん=写真=の無料コンサート(開演午後2時/整理券配布午前10時)や横須賀に店舗を構えるパンとコーヒーの専門店によるマルシェなどが楽しめる。

 時間は午前10時から午後4時。入場自由。問い合わせは同大【電話】046・822・8751。

三浦LC加藤会長 60年の節目「挑戦続ける」

 社会奉仕団体の三浦ライオンズクラブ(加藤孝次会長)は5月31日、創立60周年の記念式典をメルキュール横須賀で開催した。正会員25人を含む総勢220人が集まり、節目を盛大に祝った。来賓として小泉進次郎農林水産大臣も駆けつけて、地域に根ざした活動を継続的かつ献身的に取り組んできたことを称えた。

 挨拶に立った加藤会長=写真=は「クラブが還暦を迎えることができた。引き続き皆さまの期待に応えるような挑戦を続けていく」と述べた。

 同クラブは60周年記念事業として、三浦市の小・中学生の野球大会や少年サッカー大会の支援、年3回の献血協力、共同生活援助事業所「あゆみの家」の活動支援などの実施を報告した。

さくポの案内が行われている同院

横須賀共済病院 健康記録”見える化” 既往歴などをスマホで閲覧

 自身の診療歴などをスマートフォンで気軽に見られるシステム「さくポ」が6月2日から横須賀共済病院(米が浜通1の16)で導入された。同院での診療歴やアレルギー、処方薬といった自身の検査データをいつでも閲覧できる。無料通信アプリ「LINE」公式アカウントを追加し、同院で本人確認を行うと閲覧できる。利用無料。

 昨年9月から稼働した横須賀・三浦地域を中心とする約270の医療機関で患者のカルテなどの情報を共有するシステム「さくらネット」に集約した情報を患者側のスマホで見られるようにするもの。健康記録を見える化することで、健康意識増進や家族間での見守り装置としても機能する。

 また、患者情報が共有されていないさくらネット提携院以外を受診した際した際は、医療機関側にデータを提示するだけでスムーズに既往歴などを伝えられるため、救急搬送された際などの緊急時にも有用だという。

 現状、さくポが導入されているのは同院のみ。今後は、さくらネットに加入済みで許諾が取れた施設でも導入を進めていく。そうすることで、複数の医療機関での受診歴などが一目で分かるようになる。同院は「地域医療を支える重要な仕組みだと考えている」と登録を呼びかけている。

 登録は同院で配布しているチラシから。

「よこすか地元のお店応援大賞2024」の受賞者

市民が選んだ横須賀の名店

 横須賀の人気店を利用者の投票で選出する「よこすか地元のお店応援大賞2024」の表彰式が5月27日、横須賀商工会議所で開かれた。横須賀商店街連合会の主催で今回4回目。854件の応募があり、以下の8店舗が選ばれた。

【ショッピング・サービス部門】  

 ねこ先生の整体院(上町2の5の7)/さくらマート(久里浜4の15の12)/メガネのささき(衣笠栄町1の8)/新鮮屋ヨシダ本店(久里浜4の6の6)

【飲食店部門】

 Owl,s Dream(大津町3の19の2)/やきとり竜馬におまかせ(日の出町2の3)/ひさご寿司第2(久里浜4の15の10)/MaNo e MaNo(池上2の9の15)

三浦市長選 現職に2新人挑む 人口減、経済再生など課題共通

 6月8日(日)告示・15日(日)投開票の三浦市長選は、現職と新人の対立構図が固まりかけたが、県外から3人目の候補者が現れ、三つどもえの状況となっている。5月末までに立候補を表明しているのは、6期目に挑む現職の吉田英男氏(69)、元会社員で市民団体代表の出口嘉一氏(43)、千葉県柏市在住でコンサルタント業の秋葉俊二氏(56)の3人。人口減対策や水産業の振興、教育改革などが主な争点。6月3日時点の有権者数は3万5301人、前回2021年は無投票で、前々回の投票率は38・90%だった。

5期の実績強調吉田英男氏

 水産業を核に、海をテーマにして経済の活性化を図る「海業」推進など、地域特性を生かしたまちづくりを掲げる。これの実現に向けて国・県・市のチームプレイで挑むことを強調する。防災分野などを中心に三浦半島の広域連携の重要性を説くのも単独の自治体として個性を発揮するための基盤強化が狙いだ。

 昨年、休止状態に陥った三浦海岸海水浴場は再開に向けていち早く行動を起こし、市の主導で再生の道をめざす。市役所の移転に関連して当初は三崎地区に移動式の出張所を設置する考えだったが、市民ニーズを理解して、出張所機能を残すことを決定するなど迅速に解決策を示してきた。

 こうした一連の取り組みや方針をタウンミーテイングで伝達。問われる多選の是非は「選挙で市民に問う」としている。

多選を阻止出口嘉一氏

 「選ばれるまちづくり」のスローガンを掲げ、現市政の刷新を目指す。

 3人の子を育てる現役世代。教育の充実を公約の一丁目一番地に掲げる。小中学校の統廃合計画の白紙化や小中学校給食の無償化に加え、探求型学習のモデル校新設構想を打ち出すなど「教育と子育ての先進自治体をめざす」。実現に向けた予算確保の一方策として、市長のボーナスと退職金の全額返上を公言。身を切る覚悟を示す。

 15年間勤務した化学メーカーの営業職を辞し、1月に「新しい三浦市政を考える会」を設立。政策を伝える辻立ちを市内各所で行ってきたほか、SNSを駆使して幅広い世代への浸透を目指す。

 多選批判を展開しており「人口減少など三浦市の衰退に歯止めをかける」

衰退状況を好転秋葉俊二氏

 「地元の皆さんを笑顔でいっぱいにしたい」-。本紙の単独取材で立候補の理由をそう説明した。

 千葉県柏市出身。三浦市とは妻の親族が市内で飲食店を経営していたことで関心を持つようになり、「三浦市の衰退を好転させるには民間のアイデアが不可欠」と決意を固めた。

 「諦めかけている市民の意識改革を促すことで活気を呼び戻す」と力説し、地域のデジタル化や大規模災害に備えた要塞化をめざす。

 財政の安定と雇用の創出に向けて企業誘致にも乗り出す考えも述べている。外国車ディーラーでトップ営業マンだった経験と人脈を駆使して実現させるという。

 対面重視の姿勢を示し、SNSを使わずに様々な場所での演説を通じて政策を訴える。

横須賀市池上 50匹の淡い軌跡 ホタルの飛散が最盛期

 横須賀市池上の商店街裏を流れる全長200mほどの「ふれあい下水道公園」でホタルの飛散が最盛期を迎え、訪れる人の目を楽しませている。

 「光ったよ、きれい」。辺りが暗くなると、線を引くように黄色い軌跡を見せるホタルが光を放った。

 同所でホタルの再生活動に取り組む「いけがみほたるの会」の小出和弘会長によると、今年は50匹ほどが飛んでいるという。6月2日には三浦市の老人ホームから数十人が訪れ、初夏の風物詩の観賞を楽しんでいた。同所では、橋の欄干からも眺めることが出来、「このような環境は珍しいのでは」と小出会長は話している。小出会長は自身が幼少期に見ていたホタルの灯を「子どもたちにも」という想いを原動力に市内で再生活動に携わっている。

 6月8日頃まで見られる見通し。見学自由。懐中電灯などの明るい光源は禁止。

情熱溢れる演奏でステージを沸かせた「そうざんす」

ロックで魂を揺さぶれ 横須賀市主催のコンテスト

 「ロックは生き様」を触れ込みとする横須賀市主催の音楽コンテスト「MIND ROCK AWARD 2025」のオープニングイベントが6月1日、横須賀市大滝町のライブハウスで開かれた。昨年のグランプリ受賞バンドなど4組がロック魂あふれるステージを展開した。地元から3ピースバンドの「そうざんす!」も出演した。

 同コンテストはエンターテイメントの力でまちの活性化をめざす上地克明市長の発案でスタート。今年度の募集は「ロックの日」にちなんで6月9日(月)から始まる。9月に最終審査があり、11月にフェスが開かれる。公式ホームページ(https://mindrockaward.com/)に詳細。

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山本詔一氏(郷土史家・横須賀開国史研究会会長/写真左)と藤野浩章(筆者、聞き手)

OGURIをあるく 〜小栗上野介をめぐる旅〜第49回 特別編文・写真 藤野浩章

今こそ知りたい! 小栗上野介のキホン

 小栗上野介は、なぜ歴史から消されてしまったのだろうか----。連載第1部の終わりに、1人の幕臣と横須賀の関わりについて、あらためておさらいしておきたいと思う。お話をいただくのは、郷土史家の山本詔?一(しょういち)氏(横須賀開国史研究会会長)。横須賀を中心とした幕末研究の第一人者である同氏に、小栗の「仕事」そして「人となり」について聞いてみた。

 ※対談の完全版は動画でも視聴できます。左下のQRコードからアクセスしてください。

■消された史料

「浦賀の渡し」の東側乗り場に隣接するカフェ「エルマール」の眺めの良いテラスで、山本詔一氏と待ち合わせた。

 山本先生は、父・大島昌宏が、小栗上野介を描いた『罪なくして斬らる』を執筆する際に何度も訪れていた。今から28年ほど前のことだ。当時父は家でよくその話をしていたが、筆者は学生時代に日本史を専攻していたにも関わらず幕末には関心が薄く、まるで覚えていない。

「当時、文献や史料を提供してたくさんお話しましたね。倉渕(くらぶち)村(現高崎市)の『はまゆう山荘』に2人で1週間くらい泊まり込んで調査したこともありましたよ」

 小栗の研究は、実はあまり進んでいない。というのも彼の死後、新政府軍によって財産がかなり破却されたからだ。そうなると、本人以外が記録した史料をつぶさに当たるしかない。その面でもまさに"消された"わけで、それゆえに各地で埋蔵金伝説まで出てくる有様なのだ。

 しかし横須賀は特別だ。かつての『横須賀製鉄所』は消されることはなかった。それどころか、ドックは今も稼働しているし、彼が考えたアイデアは現代社会の基盤として息づいている。これらをあらためて見つめ直すことで、小栗の困難な挑戦だけでなく、今にも及ぶ功績がより身近な存在になるはずだ。

■小栗の執念と奇跡

「製鉄所のイメージは、今とは全然違います。当時の日本では鉄で船を造るどころか、鉄の大きな板さえつくれなかった。小栗はアメリカで鉄の船が造られるのを実際に見て、その必要性を実感しました」

 そのアメリカ行きは、小栗が34歳の時だった。「幕府ナンバー3の立場で渡米しました。他の2人は外国奉行経験者だったのですが、小栗は特に目立った役職が無く、『誰?』という感じでした。なのになぜ抜擢されたのか。正使の新見正興(まさおき)、副使の村垣範正(のりまさ)の2人は端正な顔立ち、いわゆる"イケメン"だったそうです。しかしアメリカ人との厳しい交渉に備えて押しの強い男も必要、ということで強面(こわもて)の小栗が選ばれたという説もあるのが面白いです」

 こうして"ビジュアル選抜"でいきなりの外交デビューを果たした小栗。「鼻っ柱が強かったらしく、帰国後にさっそく外国奉行に抜擢されます。ちょうどロシア船が対馬に来る事件があり、じゃあ行って来い、と」

 しかしこの対馬事件で、彼は大きな経験をする。「結局はイギリスの軍艦がロシアを追い払うのですが、ある種のパワーを持たないと外交が立ち行かなくなると実感します。外国から買ってきた船でなく、日本で自ら造る船がなければダメだ、となるわけです」。こうして小栗は、前代未聞の製鉄所づくりに執念を燃やしていくことになる。

「技術支援のパートナーはアメリカにお願いするのがベストでしたが、ちょうど南北戦争の前夜という情勢もあり、断られてしまいます。そこに、絹織物の元になる蚕(かいこ)が絶滅の危機にあり、日本の良質な絹を求めていたフランスが公使ロッシュを送り込みます。その通訳がカション。彼は箱館にいたことがあり、そこで栗本鋤雲(じょうん)と知り合っていました。横浜に移った栗本に相談を持ちかけたのが、盟友の小栗──この偶然もあって、フランスと交渉を重ねていくわけです」

 そしてついに横須賀製鉄所の建設が正式に決定する。翌1865(慶応元)年に鍬(くわ)入れ式(起工式)が行われてから今年で160年。小栗が39歳の時だった。

■最先端の働き方を導入

 建設が始まった横須賀製鉄所だが、そこでは現代に通じる労働システムがいくつも登場した。

「当時の日本では家業の都合で仕事の始まりと終わりを各自で決めていました。しかし工場となるとみんな一斉に始業しないといけない。そこで勤務時間が定められ、標準時を設定して、ペナルティー付きの"遅刻"という制度もできたんです」

 製鉄所には三浦半島で多くの人が関わったが、現地に通うのもひと苦労だったという。「通勤圏は製鉄所を中心に約8キロ。北は追浜、南は久里浜、西は長井くらいまでですね。夏は6時半からの始業に合わせて、みんな1時間半前とかに家を出て、場所によっては山をいくつも越えて歩かないといけませんでした」

 その一方で、ご褒美も手厚かった。「雨が降ってもちゃんと来てくれないと困りますから雨具を支給したり、よく働いたら米がもらえるボーナス制度があったり。月給に加えて昇給の制度ができたのもこの時です」。横須賀製鉄所の登場は労働面でもまったく新しい概念をもたらした。日本の産業革命の発端となった総合工場だったと言っても過言ではないだろう。

■日本の発展を予測

 製鉄所づくりに奔走した小栗とは、いったいどんな男だったのだろうか。「小栗は旗本の中でも比較的石高(こくだか)が大きい、いわば高級官僚でした。だから"徳川=日本"であって、日本から徳川家が抜ける、などということは考えられなかった。そこが徳川

慶(よし)喜(のぶ)や勝海舟とは根本的に違うところだったと思います」

 さらに山本氏はこう分析する。「頭はものすごく良かったと思いますが、"お前らには分からないけれど"という、ちょっと鼻にかけるところがあったかもしれません。子どもの頃から"天狗"というあだ名があったくらい。そんなところが、もう一つ彼の人気が無い部分かもしれませんね」

 なるほど、小栗と一緒に働くのも案外大変だったかもしれない。「でも日本の将来を見抜いて、近代工業を発展させた功績は大きい。多少強引なやり方であっても、彼がいなかったら、日本は工業の発達が遅れて、農業国に近い形になっていたかもしれません」

■大河ドラマ化が決定

 2027年のNHK大河ドラマが小栗を主人公にした「逆賊の幕臣」(主演・松坂桃李さん)に決まった。「今までとは違う視点が加わって"近代"そのものの見方が変わるきっかけを与えてくれるような気がします」。小栗がどんなキャラクターになるのか、そしてライバルの勝海舟がどう描かれるのか。「勝は子どもたちにも人気の庶民派ですから、ある意味で小栗と正反対のところがあります。そういうところもどう描かれるのか、楽しみです」

 近代日本の加速装置とも言える横須賀製鉄所ができた三浦半島・横須賀。日本の歴史を変えたと言っても過言ではないこの場所に執念を燃やした幕臣、小栗上野介。その物語は、現代の私たちに大きな学びと、新しい希望を与えてくれるに違いない。