鎌倉版【10月3日(金)号】
手製の人形で『ランペルスティルツキン』を演じる井上さん

1人で自在に人形劇 長谷の井上由利子さん

 「さあさ、おくれ。おいらにおくれ――」。軽快に歌い、人形を巧みに操るのは、人形劇師の井上由利子さん(70歳・長谷在住)だ。あす4日(土)は朝食屋コバカバ(小町)で、来月は都内で、12月には大船小学校でと、依頼を受けては手作りの人形や舞台を携え、各地へ赴く。

 井上さんが手掛けるのは、日本の昔話やグリム童話の作品が中心。『一寸法師』や『ぶんぶくちゃがま』『ジャックと豆の木』のほか、縁あって作製した鹿児島県の屋久島ゆかりの宣教師の物語『シドッティ』などもある。

 昔から作ることが好きだったという井上さん。小学4年生の夏休みの宿題として初めて操り人形作りに挑んだ。自身のブラウスを解体して人形の衣装を縫い、「近所の器用なおじいさん」の協力を得て「赤ずきん」を完成させた。

 その後も粘土や織物など、さまざまな素材での創作活動を楽しむ中で、偶然知り合った人形作家から「人形劇を作りたいから作品を探して」と頼まれた。用意すると、今度は「牛や馬を作ってみて」「これなら人形もできるわ」と気付けば制作することに。

 「50歳の節目の時に『自分にしかできないことができたら』とは考えていたんだけど、まさかずっとやることになるとはね」

「1人でもやりたい」

 その後、和紙の張り子の人形を作り、図書館で本を借りて基本的な操作を勉強。学生時代から親交のあるブルーグラス音楽の仲間を誘い、生演奏つきの人形劇団の活動を始めた。

 忙しさから解散することになったが、「1人でもやりたい」と一念発起し、再開。伴奏として夫がバンジョーを奏で、支えてくれた。

 1人では、人形操作に場面転換と休む間もないが、せりふや仕掛けで間を感じさせない。家来が王にひざまずくような複雑な動きも今やお手の物。人形が思いがけないポーズを取ることも魅力だと話す。

 一方、顔の変化はないにもかかわらず、「表情が変わって見える」という声をよくもらう。公演後、子どもたちに人形を動かしてもらうと、表情が変わったように井上さんも感じるという。

 制作した人形は約30体。新作も作り続けている。10月には、児童文学者・岩崎京子さんの『かさこじぞう』を作者ゆかりの地で演じる予定だ。横に並んだ地蔵がくるりと一斉に向きを変え、ぴょんぴょん進む姿を見せ、「うまくできているでしょう」とほほえむ。

楽器と共に公演も

 1人での公演も見ごたえたっぷりだが、伴奏がつくと一層魅力は増す。

 夫が亡くなってからは、娘のゆい子さんがギターを、鎌倉在住の写真家・大社優子さんがバンジョーを担当してくれている。3人での公演の際は、「劇団」として出演する。皆の名前がYから始まることと、亡き夫の口癖「Do(ドゥー)!」を合わせて「にんぎょうげきだんDo(ドゥー)!Ys(ワイズ)」と決めたのは、ちょうど1年前のこと。込めた思いはこうだ。「楽しいことドンドンやるわよ!」
ガイドツアーを紹介するチラシ

「いざ、鎌倉」ガイドツアー始動 混雑緩和、分散化目指す

 日本遺産「いざ、鎌倉」ガイドツアーが、10月5日からスタートする。市内56カ所に点在する構成文化財を中心に巡り、観光客の「歩く観光」推進と行き先分散化による混雑解消を目指す。

 鎌倉市では、市や鎌倉市観光協会などを構成団体として、「日本遺産いざ鎌倉協議会」を立ち上げ、昨年4月に鎌倉駅西口に同遺産観光案内所を設置するなど、事業を進めてきた。

 鎌倉の歴史や構成文化財についてさらに理解を深めてもらおうと、同協議会とNPO法人鎌倉ガイド協会が協定を締結し、ガイドツアーを行うこととなった。

 実施期間は、今年10月から来年3月の毎週日曜日。1日1回2時間程度で、参加費は800円。

 10月は、鶴岡八幡宮や永福寺などを建立した源頼朝公の足跡をめぐるツアーや、数々のテレビドラマの舞台となった「坂ノ下」周辺をめぐるツアーが予定されている。

 「いつもの鎌倉の景色が少しだけ違ってみえるかも」と担当者。詳細は、鎌倉ガイド協会のホームページから確認できる。

 問い合わせは、同協会【電話】0467・24・6548(午前9時30分から午後3時30分)へ。

青空自主保育なかよし会の創設者で専任保育者を務める 相川 明子さん 梶原在住 74歳

伸びやかに たくましく

 ○…大人の背丈よりも大きな岩を、3歳の子どもが力強く登っていく。頂上から周りを見渡す顔は、誇らしげに輝いている。「危ないじゃないか」と思う人もいるだろうが、鎌倉で40年続く「青空自主保育なかよし会」ではこれが当たり前。森や海を思う存分楽しむ。大自然は子どもにとって無限の遊び場であり、時に厳しさも教えてくれる先生でもある。「幼い頃は人生の中のほんの一瞬。その時間だけでも自由にさせてあげたい」。子どもたちを見守る眼差しは、常にやさしい。

 ○…自身の子どもを保育園に預けた時、大人の都合で決まる時間の区切りに窮屈さを感じた。あれもダメ、これもダメではない自由な保育。「無いなら作っちゃえ」と保護者数人で立ち上げた「なかよし会」は、その独自性から「兄弟も」「友達も」と、徐々に賛同者が増え、これまでに500人以上の子どもが巣立っていった。「ここまで長く続くとは思ってもみなかった」。満面の笑みから、充実した日々が伝わる。

 ○…東京都出身。物心つく頃には湘南に移り鎌倉暮らしは60年。「ちょうどいい里山があって、空気が奇麗で海も近くて最高」と魅力を語る言葉は尽きない。活動拠点である鎌倉中央公園周辺の環境を守るため、「NOP法人山崎・谷戸の会」を設立し、他団体とも協力して景観保持の重要性を訴え続けている。

 ○…鎌倉の里山に育てられた娘たちは独立し、長女は横浜市で里山での自主保育活動に取り組んでいる。同じ道を歩む姿に「やっぱりうれしい」と相好を崩す。「子どもたちは、葉っぱ1枚、木の棒1本からでも遊びを見つける。大人はきっかけを教えて、あとは見守るだけでいい」。のびやかに、たくましく育つ姿を、我が子に重ねる。

鎌倉市長選挙 3氏が出馬表明

 任期満了に伴う鎌倉市長選挙(10月19日告示、26日投開票)を巡り、9月30日までに同市議の栗原絵里子氏(56)、新人の寺田浩彦氏(63)、新人の広瀬浩一氏(61)が立候補を表明した。

 3氏ともにタウンニュース社の取材に応じた。

栗原 絵里子氏

 2017年に鎌倉市議選に初当選し現在3期目の栗原氏は、市が進める新庁舎整備について「白紙撤回」をしたうえで、市民参加型のまちづくりを可能とする仕組みづくりを訴えるほか、避難ビルの整備など被災させないまちづくり、文化財の保護、公共施設や学校などのインフラ整備、学校給食の無農薬化、高齢者支援などを掲げる。

寺田 浩彦氏

 NPO法人代表の寺田氏は、「市政の停滞に危機感を感じている」とし、歩行者と自転車、人力車にやさしいまちの実現、ごみ焼却場をつくり、余熱を銭湯などで利用しコミュニティーの場にしたいと話す。さらに、旧前田邸の保存活用や永福寺の復元など文化や芸術の尊重、市立大学や人材活用センターの設置などを訴えた。

広瀬 浩一氏

 会社員の広瀬氏は「さまざまな課題がある今の鎌倉市政を変える」と意欲を語り、少子高齢化対策やオーバーツーリズム対策のほか、市長や市議会議員の報酬ゼロ、公務員の半減など行政コスト削減も重点施策にあげた。スマートシティや共生社会の推進も訴える。市役所移転は、現計画の白紙撤回と住民投票の意向を示している。

 なお、同市長選へは、5選を目指す現職の松尾崇氏(52)がすでに立候補を表明している。

   (10月1日起稿)

郷土芸能勢ぞろい きらら鎌倉で10月12日

 鎌倉市内に伝わる郷土芸能を披露する「第54回鎌倉郷土芸能大会」が10月12日(日)、鎌倉生涯学習センターきらら鎌倉(小町1の10の5)ホールで開催される。午前11時から午後4時(予定)。参加無料。

 当日は、芸能団体として鎌倉鳶職組合木遣保存会、鎌倉神楽保存会、小袋谷囃子会、坂ノ下さざなみ会が出演。おはやし団体として大船鎌倉囃子保存会、山之内囃子保存会、材木座囃子連中、台祭囃子保存会が会場を盛りあげる。このほか、特別出演として玉縄中学校箏曲部と玉縄太鼓・玉縄中学校8組が参加する。

 同大会は東アジア文化都市2025鎌倉市連携事業として実施される。主催は鎌倉市郷土芸能保存協会・鎌倉市教育委員会。詳しくは同委員会文化財課【電話】0467・61・3857へ。

連載 vol.4鎌倉の未来 紡ぐ視点 スタジアムで地域共生 鎌倉インターナショナルFC 神川 明彦 クラブアドバイザー

 鎌倉市のこれからのまちづくりについて、経済、観光、医療、スポーツ、学生など、さまざまな分野の団体にインタビューする連載企画。第4回は、鎌倉インターナショナルFCクラブアドバイザーの神川明彦さん=写真=に「スポーツ」を軸に話を聞いた。

 ゴールドクレストスタジアム鎌倉をホームグラウンドに活動する、神奈川県社会人1部リーグ所属のサッカークラブ「鎌倉インターナショナルFC(鎌倉インテル)」。クラブが提唱する「スタジアムづくりは、まちづくり」の理念のもと、その本拠地は地域に開かれたスタジアムとして機能し、地域貢献の新たなモデルを築いている。

 同スタジアムは、市民や企業によるクラウドファンディングなど民間の力を集めて生まれた経緯を持つため、「地域のハブ施設」としての役割を重視しているという。陸上やラグビー、高校サッカー部、幼稚園や保育園、シニア向けの健康教室など、さまざまな団体が使用しており、鎌倉インテルのジュニアユースチームの監督も務める神川さんは、「地域の方々が安心・安全にスタジアムを使用できる環境を整えている。それこそが我々鎌倉インテルが果たすべき役割」と力を込める。

防災と賑わい両面で

 スタジアムは、有事の際、住民の命を守る防災拠点にもなるという重要な側面を持つ。今年2月に市内各地で行われた、アウトドアと防災体験のイベント「もしかま2025(鎌倉エフエム放送主催)」では、炊き出しや防災運動会などを実施。スタジアムが単なるスポーツ施設ではなく、「もしも」に備える地域共創の場であることを体現した。

 また、8月には地域感謝イベント「クレスタ サンクスフェス」を開催。地元飲食店によるブースや縁日、チアダンスなどのパフォーマンスで会場は終日活気に包まれ、1700人を超える地域住民や関係者が来場し大盛況となった。「年齢も性別も国籍も関係なく、一体感に包まれていた。スタジアムがさらに愛される存在になれば」と神川さん。

 10月19日(日)には、今シーズンのホームゲーム最終戦が同スタジアムで開催される。「ぜひ足を運んで」。キックオフは午後6時。

上・右下/演奏に集中する岩瀬中吹奏楽部のメンバー、左下/瑛人さん(左)とサックス奏者のMONKYさん(撮影:高橋創平さん)

岩瀬中吹奏楽部 瑛人さんと「香水」で共演

 鎌倉パブリックゴルフ場(今泉)で9月21日に開催された地域参加型イベント「エンドレスサマー」で、岩瀬中学校吹奏楽部が、シンガーソングライターの瑛人さんと共演し、代表曲の「香水」を演奏した。

 当日の3日前、リハーサルのため同校を訪れた瑛人さんとサックス奏者のMONKYさん。「音の緩急を大切に」「聴いている人の気持ちに訴えかけるようにダイナミックに」などアドバイスを送り、生徒たちと一緒に練習を繰り返した。

 同部の大塚結花部長(3年)は、「1カ月位前から練習をしてきた。アドバイスでみんながもっと上手になってうれしい。音楽って楽しい」と笑顔を見せた。

 同ゴルフ場の手塚勇貴代表取締役社長は、「地元の子どもたちと一緒にイベントができたことが最高。次回も色々な方と協力して盛り上げていければ」と話した。

野原で育つ子どもたち 11日に映画と座談会

 鎌倉市で40年続く「青空自主保育なかよし会」の保育風景を記録したドキュメンタリー映画『さぁのはらへいこう』の上映会が10月11日(土)、鎌倉市福祉センターで開催される。上映後は、同会の創設者である相川明子さん=人物風土記で紹介=と保護者らによる座談会も行われる。

 青空自主保育は、園舎を持たず、野外を活動場所に子どもたちの成長を見守る保育の形。同会では鎌倉中央公園を中心に、山や海などでも活動。子どもたちの自主性を尊重するスタイルで長年親しまれてきた。

 映画は2011年に初公開されたもの。泣いたり転んだりしながら、子どもたちが自然の中で生き生きとたくましく育っていく姿を追った作品。

 開場は午後0時30分、開演1時。座談会は3時15分から4時まで。参加費は1500円(託児500円)。事前申し込み制のため、参加希望者はhttps://peatix.com/event/4427184から申し込みを。

西鎌倉で地域食堂

 西鎌みんなの家(津西1の16の36)で「つながり食堂」が10月11日(土)正午から開催される。

 毎月第2土曜に開催している地域食堂。大人は400円、子どもは200円で手作りの料理やデザートが食べられる。年齢制限なし。食事後は月替わりの交流企画もあり、参加可能。(問)【電話】0467・32・8637

<PR>
【LINE読者限定プレゼント】
【LINE読者限定プレゼント】
  毎月15名様に抽選で『Amazonギフト券1,000円分』をプレゼント!ギフト券以外のプレゼントもあるかも!是非チェックしてみてください。 (続きを読む)
<PR>
神奈川の企業Web集客に タウンニュースのネット版「タイアップ広告」でPR強化
神奈川の企業Web集客に タウンニュースのネット版「タイアップ広告」でPR強化
  1人1台のスマホ時代。企業広告・商品サービスPRにおいて「デジタル化」は避けては通れないテーマといわれている。「日本の広告費」(電通調べ)によると、2024年の... (続きを読む)
海蔵寺の竜胆

鎌倉のとっておき 第187回 かまくら花めぐり竜胆(りんどう)

 秋の深まりとともに、青紫に咲く鎌倉縁(ゆかり)の竜胆の花。その清楚で凛とした美しさから、枕草子や源氏物語などの文献にも古くから登場し、多くの人々に愛されている。

 枕草子では「竜胆は(中略)、異花どもの皆霜枯れたるに、いと花やかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし」と、他の花が霜枯れる季節に鮮やかに咲く様を賛美している。

 また源氏物語では「枯れたる草の下より、竜胆のわれひとりのみ心ながう這い出でて露けく見ゆる」と、竜胆の咲く晩秋の風情を豊かに表現している。

 かたや竜胆の根は、古(いにしえ)より薬として重宝されているが、その味が「竜の肝(胆)のように苦い」と例えられたことから、「竜胆」と書くようになったとも聞く。

 また、竜胆はその花姿から、高潔さや正義感の象徴とされていたため、武士や貴族の間では家紋(竜胆紋)としても愛用されてきた。特に笹竜胆は多くの源氏が用いるとともに、鎌倉市章のデザインにも使われている。

 そんな竜胆の咲く寺院といえば、北鎌倉では明月院。月笑軒前で群生して咲く姿は見事である。かたや東慶寺の本堂前でも楚々として咲く。

 また海蔵寺(扇ガ谷)の仏殿前や、報国寺(浄明寺)の参道沿いでは、庭園の苔むす緑と青紫に咲く竜胆とのコントラストが美しい。

 晩秋の竜胆が咲く静かな境内に佇めば、古の都(みやこ)人(びと)らが愛(め)でた花々の姿も目に浮かんでくるようである。

石塚 裕之