八王子版【12月11日(木)号】
聖地巡礼ノートが置かれている「ソウルグリル」の松井店長

ロケーションジャパン大賞 八王子アニメが候補に あす12日まで投票受付

 八王子を主な舞台としたテレビアニメ『日々は過ぎれど飯うまし』(略称:ひびめし)が、「第16回ロケーションジャパン大賞」にノミネートされた。1年間に放送・公開された映画やドラマの中から、地域を盛り上げ、人を動かした「作品×地域」に贈られるもので、グランプリ選考の指標の一つとなる一般投票をあす12月12日(金)まで受け付けている。

 同賞には今年、NHK連続テレビ小説『あんぱん』や映画『劇場版 名探偵コナン』などを含む全68作品・88地域がノミネートされている。審査基準は「支持率」「撮影サポート度」「ロケ地行楽度」「地域の変化」の4つの指標を元にグランプリを決定する。2026年2月19日(木)に発表される予定で、市はウェブサイトなどを通じて市民やファンへの投票協力を呼びかけている。

市内各地が実名で登場

 『ひびめし』は、25年4月から6月にかけてTOKYO MXなどで放送された日常系アニメ。「食文化研究部」に所属する5人の女子大生が、美味しい食事と会話を通じて友情を育むハートフルコメディだ。制作は料理作画のクオリティの高さに定評があるP.A.WORKSが手がけた。作中にはJR八王子駅周辺や南大沢エリア、東京都立大学、高尾山、道の駅八王子滝山など、実在する市内のスポットや飲食店が実名で忠実に描かれている。作品に登場した寺町にあるハンバーガー店「ソウルグリル」では「聖地巡礼ノート」が設置され、ファンがメッセージを書き込んでいる。同店の松井淳店長は「海外など遠くからいらっしゃる方もいてありがたい」と手応えを語る。

アニメ制作を地域で後押し

 ノミネートの背景には、自治体による誘致や制作支援の取り組みがある。(公社)八王子観光コンベンション協会は、フィルムコミッション事業として企画段階から制作を支援した。

 23年春に制作会社から「グルメに焦点を当てた作品を作りたい」という相談を受け、コンセプトに合致する飲食店のリストアップやロケハンの同行、関係各所との調整を行った。放送時には市内店舗でポスター掲示をするなどPR面でも連携。同協会の担当者は「広い八王子がまんべんなく登場していた。作品の良さが伝わったのならうれしい」と話している。
初宿市長(右)に受賞を報告した小俣さん

北野町小俣牧場 「乳牛五輪」で1等賞 都代表として出場

 「乳牛のオリンピック」とも称される「第16回全日本ホルスタイン共進会北海道大会」がこのほど北海道で開催され、東京都代表として出場した北野町の小俣牧場(小俣行弘代表=人物風土記で紹介)で育った乳牛が、優等賞に次ぐ1等賞の第7席に選ばれた。小俣さんは11月18日に市役所を訪問し、初宿和夫市長に受賞を報告した。

 各都道府県代表の乳牛が集い、長く健康でいるために必要な体型の改良度合いを競う共進会の全国大会。戦後の復興間もない1951年から概ね5年ごとに開かれているが、コロナ禍で前回が中止となったことから、10年ぶりの開催となった。

 北海道勇払郡安平町で開かれた今大会には、全部門を合わせて約400頭が出場。小俣牧場の乳牛「YMO ドロツプキツク マリア」は、経産・月齢36月以上42月未満(3歳ジュニア)部門に出場し、最上位グループの「優等賞」を北海道勢が独占するなか、優等賞に次ぐ「1等賞」の7席を獲得した。

体調不良でピンチも

 小俣さんの乳牛は、昨年10月に行われた東京都乳牛共進会でも農林水産大臣賞を受賞。全国大会での活躍が期待されていたが今夏、出産日が八王子で最高気温40・3度を記録した日にあたってしまい、餌を食べられないぐらい弱ってしまった。点滴や手術、栄養剤を与えるなど、できる限りのことをして献身的に世話を続けた小俣さんの思いが通じたのか、徐々に牧草を食べられるようになり、9月の都予選にもなんとか出場することができた。そして10月、東京代表の一頭として北海道へと旅立った。

無事帰宅に安堵

 表敬訪問で初宿市長に全国大会出場への道のりや大会の様子を語った小俣さんは、「(生育環境が充実している)北海道の牛が多数受賞する中で、東京の牛が1等賞を取れただけでもうれしい」と受賞の喜びを語った。また、北海道へはトラックやフェリーを使っての長距離移動になるため、牛に疲れやストレスが溜まって、ぐったりしてしまうことも多いことから、「何より無事に帰って来ることができて良かった」とほっとした表情で語った。初宿市長は「日頃から、いかに愛情を持って牛を育てているかが伝わってきた。大変なご苦労があったと思うが、受賞はそれらが認められた結果と思う」とねぎらった。

育てた乳牛が「第16回全日本ホルスタイン共進会」で1等賞を受賞した 小俣 行弘さん 北野町在住 49歳

都会の牧場で牛に注ぐ愛情

 ○…北野町の住宅街にある「小俣牧場」で乳牛を飼育。とれた牛乳は、都の地域特産品「東京牛乳」やアイスクリームなどに使われている。飼養する牛の一頭が、このほど「乳牛のオリンピック」とも称される全日本ホルスタイン共進会で入賞した。片道1000Kmにも及ぶ長距離移動を乗り越えた牛の無事を喜び、「牛も人と同じ。体調を崩すこともなく、ホッとしている」と安堵の表情を見せる。

 ○…3きょうだいの長男。酪農は昭和40年頃に父が始め、子どもの頃から牛の世話が好きだった。専門学校を卒業後は一時、介護の仕事に就いたが、23歳の時に退職。北海道の農業専門学校で畜産を学び、卒業後は十勝の牧場で働いて経験を積んだ。3年後に実家へ戻り、家業を継いだ。住宅街での酪農、心がけているのは牛と近所への心配りだ。「牛舎の清掃や換気、飼料の工夫など少しでも臭いを減らせるように工夫している。そうした取り組みが結果的に、牛が心身ともに健康に過ごせる飼養環境の向上にもつながっている」

 ○…「手間ひまをかけた分だけ、牛の健康や乳質に返って来る」とやりがいを感じている。共進会出場は2度目。大会を通じて「東京の牛の良さ」が生産者に広まることに手ごたえを感じている。「牛も人も健康に過ごして、おいしい牛乳を作って、次の共進会にチャレンジする機会がもらえればうれしい」

 ○…「食育、命の教育につながれば」と八王子農協酪農部会の仲間と、小学校や地域の子供会の搾乳体験にも協力。消防団活動も20年以上続けている。生きものを扱う仕事のためなかなかできないが月に1〜2回、酪農ヘルパーが来た日に訪れるサウナやカラオケスナック、一人居酒屋でリフレッシュ。

スポーツが苦手な子も 帝京大学で無料教室

 小学生対象の参加無料スポーツ教室「TEIKYOマルチスポーツカーニバル」が、帝京大学八王子キャンパス(大塚)で行われる。

 帝京大学の学生たちと交流し、運動の苦手な子どもにもスポーツの楽しさを体験してもらうイベント。1月24日(土)は「広い芝生deかけっこDAY(走り方教室)」(先着60人)、2月8日(日)は「バスケットボールdeあそぼうDAY(バスケ教室)」(先着60人)=写真はイメージ。いずれも初心者歓迎で、午前10時から正午まで。

 申し込み方法は、「TEIKYOマルチスポーツカーニバル」で検索。走り方教室の申込締切は1月9日(金)正午、バスケ教室は1月23日(金)正午、問い合わせは同大学スポーツ局【電話】042・678・3403。
フェア発表会に出席した(右から)明治の関さん、バーゼルの渡辺さん、ゴーシュの鈴木宏央さん、ちろりん村の小林一枝さん

明治、市内13店とコラボ ヨーグルトメニューを開発

 七国に研究所を構える株式会社明治は2026年2月28日(土)まで、市内の飲食店13店舗で健康を考えるコラボメニューを提供している。

 「冬の体調管理フェア」と題し、各店が同社の人気商品「明治プロビオヨーグルトR-1」を使ったオリジナルメニューを開発。参加店舗は、ちろりん村(明神町)、gauche(ゴーシュ/横山町)、atelier BASEL(アトリエバーゼル/上柚木)など。

 12月3日には、TOKYO FARM VILLAGE(小比企町)でフェアの発表会を開催。参加店代表の有限会社バーゼル洋菓子店の渡辺純代表取締役は、「八王子は昼夜の寒暖差が激しいので、食生活を通して楽しみながら体調管理をするきっかけにしてほしい」とあいさつした。

 株式会社明治のグローバルデイリー事業本部の関慶次発酵マーケティング部長は、「八王子にイノベーションセンター(研究所)がある縁もあり、八王子からフェアをスタートできることを楽しみにしている。参加店の皆様と少しでも盛り上げていければ」と期待を寄せた。

 詳細や問い合わせはフェア名で検索。

めだかすくいNo.1は 38匹の記録更新者 募集

 めだかの飼育・販売などを介して就労支援を行っている株式会社あやめ会が12月13日(土)・14日(日)、イベントを催す。

 同会のめだか販売店(子安町1の2の6 南口駅前ビル5階)を会場に、「めだか販売店年末大感謝祭」と題して行われる今年最後のイベント。

 めだかすくい年間チャンピオン決定戦も行われ、暫定記録である「38匹」を更新する者が現れるのかが注目の的だ。

 開催時間は午前11時から午後6時。福袋の先行販売やグッズのセールも実施予定。詳細や問い合わせは同店【電話】042・649・4410。

みなひろマルシェ 糸へん通りテラス

 南町で12月13日(土)、「あつまれ!クリスマスマーケット第6回みなひろマルシェ」が行われる。午前11時から午後3時30分。雨天決行。

 会場は糸へん通りテラス。障害のある人たちが暮らすグループホームで1階には地域交流スペースみなひろがある。

 ステージ発表や飲食など多彩な催しが目白押し。11時30分から2時30分は、「アーティストインキッチン」と題し、ミュージシャンの北澤一也さんがスパイス香るジャンバラヤとケイジャンチキンを販売する。

 (問)主催者【電話】︎080・6546・6383
アドバイスを語る栗原理事長

市場のプロに聞く 八王子綜合卸売協同組合 歳末 いい買い物のコツ 物価高騰・物流の影響も

 年の瀬が迫り、北野町にある卸売市場「八王子綜合卸売協同組合」は、年末年始の準備に訪れた買い物客で活気にあふれている。

 八王子の市場は一般消費者にも常時開放されている珍しい市場。場内には肉や魚、青果などの生鮮や惣菜、加工食品や雑貨などを扱う店舗が軒を連ねる。同組合の理事長を務める栗原一さんは「物価高騰が続く中、良いものを安く求めるなら信頼の市場へ」と呼びかけ、市場を賢く利用する方法についてアドバイスする。

「聞く」も大切

 栗原さんによれば、今年は物流がひっ迫しているため「欲しいものは早めの購入を。売り切れれば年内に次の入荷がないこともありえる」と注意を促す。まとめ買いをして家族や友人と分け合うのも賢い方法だ。また「スーパーと違って、市場は対面販売がメイン。『何に使うか』『何人家族か』などを伝えれば、その道のプロたちが最適な商品や食べ方などを教えてくれる。迷ったら、なんでも聞いて」と話している。

 同組合(向かって右側の市場)では、12月13日(土)まで歳末感謝セールを開催中。あす12日(金)と13日にはガラガラ抽選会も実施する。同組合の店舗で使える商品券が当たる。ハズレなし。午前7時30分から11時30分まで(なくなり次第終了)。問い合わせは同組合【電話】042・645・6300。
「すくてくグラム」のプロフィール画面

手軽に情報収集を 市、子育てInstagram開設

 八王子市は11月21日、市内の魅力を子育て世代などに随時発信する市公式Instagram「すくてくグラム」を開設した。

 今年度策定したシティプロモーション基本戦略の中で「八王子の魅力をもっと発信すべき」と課題を挙げたことを受け、子育て世代により手軽に知ってもらうツールの一つとしてInstagramを始めることに。投稿テーマの選定や作成は市長公室広報プロモーション課が行っている。

 12月5日時点の投稿数は10件。テーマは「司書さんがおすすめする3歳児向け絵本」「八王子のインフルエンザ予防接種情報」「交通ルールを楽しく学べる東浅川交通公園」の紹介など。

 同課の担当者は、「市役所に勤務しているママ・パパにアンケートを取り、子育て世代のニーズに合う情報をアップするようにしている」と話す。別の担当者は「アカウントを作るのに、どんな投稿記事が読まれやすいか、どんなデザインにするか、課内で何度も話し合った。硬い行政用語は使わないようにしている」と親しみやすさを重視する。

 すくてくグラムのアカウントは「@hachioji_sukuteku」。

 問い合わせは同課【電話】︎042・620・7228。

芸者カレンダー13日、販売会

 八王子芸者衆が12月13日(土)、2026年版カレンダーを見番(八王子三業組合事務所/南町1の7)で販売する。正午から午後2時。雨天中止。

 今回は「八王子八福神」をテーマにした一冊となっている。「新年の開運と皆様の福を願い、心を込めてお届けします」と八王子芸妓・恵美寿家のあやめさん。

 詳細・問い合わせは【電話】042・622・5191。
昨年行われたうきうきファッションショー=主催者提供

ステージから活力を 21日 シニアファッションショー

 市民公募モデルがウォーキングを披露する「第4回シニアのためのうきうきファッションショー」が12月21日(日)、八王子市生涯学習センター(東町)のクリエイトホールで開催される。

 NPO法人おさふく・同実行委員会が主催。年齢を重ねたことでお洒落を諦めてしまったり、体力の低下から外出の機会が減ってしまった人のために企画されたもの。フレイル(虚弱)予防も目的としており、本番までに理学療法士によるウォーキングレッスンや美容・健康に関する講義などを実施している。

最高齢は92歳

 今回、公募で集まり舞台に上がるのは、女性23人、男性1人の計24人。最高齢は92歳だ。同実行委員会によると、日常的に着飾って街を闊歩する高齢者を増やしたいため、普段は着れないドレスで出演するのではなく、思い出や思い入れのある衣装を着用するという。

 ファッションショーは午後1時から。観覧無料で直接会場へ。

 主催の同法人は、高齢になっても最期まで安心して暮らせる地域社会を目指し、打越町にある数井クリニックの数井学院長が立ち上げた。

 問合わせは【電話】080・2944・9563。
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初日に参加した生徒ら

トレインズ 中学生大会を初開催 部活再編受け 機会を創出

 プロバスケB3・東京八王子ビートレインズが11月29日・30日、中学生を対象とした大会「トレインズクラシック2025」をエスフォルタアリーナで初めて開催。2日間で16チームが出場した。少子化や教員の働き方改革などを背景に「部活動再編」が進む中、プロクラブが主導して生徒へ実戦の場を提供する新たな試みとなった。

 初日は由井中や上水中、四谷中、七中、五中など市立校を中心に8チームが参加。通常のトーナメント戦に加え、敗れたチーム同士が対戦する「負け残りトーナメント」も実施。レギュラー選手でなくても、公式戦の出場機会を少しでも増やしたいと、1チームあたり最低3試合を行えるよう工夫が凝らされた。

 大会終了後の表彰式では、トレインズの渡嘉敷温人選手がプレゼンターとして登壇。(株)スーパーアルプス、(株)関電工、日本生命保険(相)がスポンサーとして協賛し、参加賞のTシャツや上位チームへのバスケットボール寄贈などで大会を盛り上げた。参加した由井中バスケ部顧問の倉光通公教諭(49)は「普段、機会が少ない部員もたくさん出場できた。大変ありがたい」と話す。

 市内の部活動再編は、近隣校の生徒を受け入れる「拠点校方式」や、運営を民間へ委ねる「地域移行」を推進している。

 七中も今年度からバスケ部の拠点校に指定されており、近隣の長房中やひよどり山中から通う生徒を含めた1・2年生17人で参加。同部顧問の青木唯音教諭(24)は「移動時間にロスがあるのは(近隣校生徒にとって)少し不利かもしれない」としつつも、「1日で3回も試合ができるなんてめったにない。控えの子も活躍していてよかった」と大会出場の手応えを語った。

ホーム戦2連続

 次のホーム戦はあす12月12日(金)・13日(土)、エスフォルタアリーナ八王子で東京ユナイテッドバスケットボールクラブと対戦。12日は午後7時、13日は2時試合開始。また18日(木)・19日(金)は、立川ダイスを相手に八王子市民デーとして開催する。
今夏に刊行されたブックレット

戦後80年 浅川地下壕の今を考える 八王子・昭和史の会が講演会

 昭和期の八王子の歴史的事象を記録し、後世に伝えることを目的に活動している八王子・昭和史の会(齊藤勉代表)が12月13日(土)、「戦後80年に浅川地下壕の今を考える 〜ブックレット浅川地下壕を刊行して〜」と題した講演会を開催する。東町の八王子市生涯学習センター(クリエイトホール)11階視聴覚室で、午後2時から4時まで。

 浅川地下壕はJR高尾駅南側の高尾町と初沢町の山稜のすそ野に今も残る、都内最大級の戦争遺跡。戦時中に戦闘機を造っていた中島飛行機の疎開工場で、飛行機のエンジンを製造していた。坑道の総延長は約10キロメートルにも及ぶ。

 講演会は、齊藤代表が今夏に刊行したブックレット『浅川地下壕』をもとに、浅川地下壕についてより多くの人に知ってもらおうと企画したもの。齊藤代表は「これまで地元は浅川地下壕にどのように向き合ってきたのか、ダイナマイトの発見や陥没問題にどう対応したのか、掘削の実態はどのように解明されてきたのかなど、戦後80年間を踏まえて浅川地下壕の今を考えていきたい」と参加を呼びかける。

 受講料は500円、大学生300円、高校生以下無料。定員70人。予約不要、直接会場へ。問い合わせは齊藤代表【電話】042・664・8615、またはメールshpqy494@ybb.ne.jpで。

―連載小説・松姫 夕映えの記― 第3回 作者/前野 博

 (前回からのつづき)  尼僧は武田信玄の五女松姫であった。今は仏門に入り、法名を信松尼といい、今年二十九歳になる。紫の頭巾で覆われているが、剃髪はせずに黒髪が肩の辺りで切り揃えられていた。その美しさは隠しようもなく、漂う悲しみの影が更に優雅さを深くしていた。

 今まで信松尼達が住んでいた心源院は八王子城の搦め手の要塞として使用されることになった。豊臣軍の進撃が間近に迫って来た。戦火に巻き込まれないよう安心して暮らせる場所を、お梅の夫・栄吉が見つけて来てくれた。ようやく引っ越しの準備が整い、今日が信松尼達の出発の日となった。

 「何事も起こらなければいいですが、そういう訳には行かないでしょう。おキミのためにも命を大切にしてください。栄吉には本当に世話になりました。栄吉のことゆえ心配はないと思いますが、戦が終わり互いに元気に再会できる日が早く来ることを祈っております」

 信松尼はお梅に向かって手を合わせ無事を祈った。

 「ありがとうございます。

 これから信松尼様達が向かわれる御所水はここから一里半ぐらいの所にあります。その地のことは善吉が良く知っています。清水の湧き出る池の畔の落ち着いた良い所だと聞いています。わたし達のことはご心配なく、必ず皆さんに会いに行きますから」

 御所水は小高い台地が続く、多摩の横山の中でも住む人の少ない静かな場所であった。こんこんと清水が涌き出し、小さな池をつくっていた。そこは谷間というより小高い丘の中腹であり、名前の由来が高所から湧き出る水からきていると想像できた。誰か高貴な人が住んでいたという話は伝わっていなかった。各地に高清水という地名は多いが、それは清水の湧き出る高地であることを意味していた。

〈続〉

◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「松姫 夕映えの記」を不定期連載しています。