横須賀・三浦版【12月5日(金)号】

三浦半島「陸(おか)から獲れる魚」図鑑 小中学生に海の魅力伝える

 三浦市三崎にある「日本さかな専門学校」(学校法人水野学園)の生徒らが、卒業制作の一環として三浦半島に生息する魚を紹介する図鑑づくりに挑んでいる。子どもたちが海や魚に接する機会が減少している現状を踏まえ、興味や関心を持ってもらうきっかけとする狙い。来年2月の完成を予定しており、横須賀・三浦両市の小中学校に寄贈する方針だ。

日本さかな専門学校が制作

 同校は、魚に関する知識を総合的に学べる日本初の専門学校として2023年4月に開校。「海洋生物研究学科(4年制)」「海洋生物学科(3年制)」の2科があり、漁業・養殖、調理・食品加工、マリンレジャーなど水産ビジネスを志望する人が学んでいる。

 卒業制作の図鑑づくりは、両科で「魚類・環境リサーチ専攻」を選択している20人の生徒がプロジェクトを立ち上げて今春から取り組んできた。

図鑑の名称は『三浦半島 ここら辺の魚』。「ここら辺」を葉山町を流れる森戸川と横須賀市の観音崎を地図上で結んだ線より南側と定義し、紹介は相模湾と東京湾の両面の魚のみに絞った。活用してもらう対象は三浦半島在住の小中学生とし、掲載条件として船釣りではなく、「陸(おか)から獲れる魚」に限定。子どもたちが自分たちの足でアクセスできる範囲とすることで、身近な自然体験を促す狙いだ。

 相模湾で確認されている魚の数は約1300種類とされる中、学生らは網、釣り、素潜りといった手法で220〜230種類を採取。標本化や写真撮影も自分たちで手掛けた。「魚の形状を崩さず、一番きれいに見える状態にするためにひれをピンと立たせて固定する『ひれ立て』を一匹ずつ丁寧に行った」とプロジェクトリーダーを務める倉田拳翔さん。解説文は難しい専門用語をあえて避け、平易な言葉でまとめた。「スマホで検索すればなんでもわかる時代だが、実際に海に行き、自分の手で魚を捕って自然に触れる楽しさを知って欲しい」と倉田さん。「図鑑を持って海に繰り出すことに繋がれば」と願いを込める。

 図鑑制作を通じて学びもあった。近年、地球温暖化などを理由とした海の変化が叫ばれているが、魚の採取活動をする中で、多様な海の生物を育むアマモ場が消失している「磯焼け」を間近にした。相模湾・東京湾で釣れるアイナメやカレイが減少している一方、季節によって南方系の魚が流入している現状も実感したという。

 100ページ超に及ぶ編集作業は大詰めの状況。2月にある学園祭「ウオ祭」での発表を予定しており、一部販売を行う計画も立てている。

横須賀三浦 伝統芸能 一堂に リ・古典プロジェクト

 横須賀市・三浦市に根差した伝統芸能が一堂に会する「カナガワ リ・古典プロジェクトin 横須賀」が12月6日(土)、横須賀市文化会館大ホールで開かれる。県下ゆかりの民俗芸能を再発信する神奈川県の取り組みの一環で2014年から県内各地で催されてきた。

* * * * *

 横須賀市からは、県指定無形民俗文化財の「虎踊り」(浦賀)や、市指定の「長井町飴屋踊り」が舞台を飾る。虎踊りは、浦賀の町衆によって300年超にわたり受け継がれてきた。虎の舞だけでなく、歌舞伎や唐人踊りを取り入れているのが特徴で、雄壮な虎の動きを表現する躍動的な演目として知られる。

 一方、三浦市からは、国の重要無形民俗文化財に指定されている「チャッキラコ」や、仮面黙劇で日本の神話を演じる「海南神社面神楽」などが披露される。チャッキラコは、毎年1月15日の小正月に少女たちが扇や綾竹と呼ばれる道具を持って舞い、豊漁や商売繁盛を祈る優美な踊りで、約250年程前から伝承されてきた。

 「菊名の飴屋踊り」も演じられる。長井と菊名の両「飴屋踊り」は、江戸時代から伝わる踊りで、それぞれ異なる地域で独自の発展を遂げてきた。今回は、この二つの地域色の異なる飴屋踊りの観賞を通じて、伝承の違いを体感できる。

 飴屋踊りのルーツとされる千葉県の「白桝粉屋おどり」も招致され、地域を超えた比較と共演が大きな見どころだ。

 午後2時から5時30分。入場無料。12月5日(金)正午までに県HPから申し込む。席数に余裕があれば当日入場可。

一般社団法人スポーツ&ウェルビーイング推進協会の代表理事を務める 堀江 茂樹さん 横須賀市野比在住 49歳

「体験差」生まない社会へ

 ○…仲間と駆け回り、泥にまみれて遊ぶ子ども達のにぎやかな声が減った地域の公園。外遊びの機会が失われることで「体験の格差」が生まれ、ひいては生きる力や将来の可能性の差にもつながるのではないか。そんな危機感から、「子ども達の未来を何とかしよう」と協会を立ち上げた。目指すのは、遊びから自然と学びを得ていた「街の公園」のような環境の再生だ。

 ○…子どもが体験できることが、家庭の経済事情などによって決められる社会であってはならない。協会として初めて企画した「かけっこ教室」の参加を無料にこだわったのも、そんな強い信念の表れだ。「果たして応募はあるのか」という不安をよそに、わずか2日で定員到達。デジタル社会でも、外遊びの需要があることを実感した。「地域で子どもを育てると言われるが、企業もその役割を果たすべき」と、同様の取り組みが広がることを願う。

 ○…生業とする柔道整復師を志したきっかけは、21歳で起こした人身事故。深い反省の念にかられ、「少しでも自分ができることを」と被害者の入院先に通い詰めた。リハビリに付き添う中、「人の回復を間近で支える仕事」に感じた魅力。人を救う尊さに目覚め、その後の人生を捧げることとなった。

 ○…鍼灸整骨院を経営し、「痛みという『マイナス』を『ゼロ』に戻すこと」に全力を注ぐ日々。ふと将来に目を向けた時、ケガを未然に防ぐタフな肉体や精神を鍛える重要性についても考えるようになった。月に休みは1日ほどだったが、協会を立ち上げたことでさらに多忙な日々に。それでも、「休息は睡眠の時間だけで十分」と力強く、子どもたちの持つ輝かしい可能性を守ることに全力投球する。

専門家の健康チェック 7日、三浦市民病院

 日頃の健康づくりについて、身体機能検査や専門家の相談が無料で受けられる「みうら市民健康大学 オープンキャンパス 2025」が12月7日(日)、三浦市立病院(岬陽町)で開催される。午前10時から午後3時まで。入場無料。

 心身の衰えを調べるフレイルチェック(当日申込・20人限定)や、頸動脈超音波検査や血管年齢などの健康チェック、最先端機器を使った歩行測定、医師や管理栄養士らによる相談ブースなどを用意している。普段は入れない病院最深部を見学する「病院探検ツアー」や、転倒予防を図る体操、バザー、ランチ販売も実施される。電動ベッドや車いすなどの福祉器具展示も。

 当日は、三崎口駅や三浦市役所などを巡回する送迎ワゴン車の運行もある(9時〜正午)。

 問い合わせは、同院リハビリテーション科藤井さん【電話】046・882・2111。

衣笠商店街 昭和100年懐かしの光景 貴重写真で振り返る

 昭和100年を記念し、横須賀市の衣笠商店街で撮影された写真展示会が12月6日(土)から11日(木)まで開催される。同商店街内ガレリア会館で、午前11時から午後6時。

 1955年にサーカス団の象がやってきて盛り上がる目抜き通り=写真、アーケード完成を祝って大鍋で100人分のパスタをゆでた様子など、懐かしい写真が並ぶ。(問)同商店街【電話】046・851・2310
配布したチラシについて患者に説明する磯崎医師

医療費自己負担 引き上げ案に「NO」 小磯診療所がスト実施

 横須賀市鴨居の小磯診療所が11月28日、国の財政制度等審議会分科会で進められている医療費抑制に関する議論に抗議しようと「ストライキ」を実施した。

 同診療所理事長の磯崎哲男医師は診療を一時中断し、議論の内容を簡潔にまとめた自作のチラシを患者に配布。「高齢者の医療費負担を3割に引き上げ、処方箋なしで買える薬は自費で購入する案など、医療費の負担増につながる話が皆さんの知らないところで協議されている」と国の方針を説明した。

 磯崎医師は、財政や経済の関係者のみで構成される分科会で、財政的視点から議論が進められている点を指摘。「金勘定だけで患者のことは考えられていない」と議論の内容に反対の意思を示す。そのうえで、こうした現状を患者に伝えるべきと考え、今回のストライキを計画したという。

 医療関係者不在のなか進められているという磯崎医師の指摘に、60代の女性は「現場の声が伝わっていないのでは」と不安を口にした。また、「なじみの医師からチラシを受け取ることで、記された内容に興味を持てた」とし、「患者の立場で考えてもらえるのは嬉しい」と話していた。

まぐろ解体に興味津々  久里浜仲通り商店街に賑わい

 横須賀市の久里浜黒船仲通り商店街で11月29日、マグロの解体ショーが行われた。各店が店舗を飛び出してアーケード内に売り出し品を並べる毎月恒例の「戸板市セール」の目玉企画。宮城県塩釜産で約80kgあるメバチマグロ2本をプロの職人が豪快にさばき、部位の解説などをしながら集まった買い物客に特価で販売した=写真。瞬く間に切り分けられていく様子に会場は驚きと笑顔に包まれ、商店街に活気をもたらした。

芦名浄楽寺 滞在型観光のハブに 「宿坊」切り口に宿泊事業

 地域一帯をホテルに見立て、活性化を目指す黒岩祐治県知事の肝いり事業「地域まるごとホテル@三浦半島」で採択を受け、秋谷・芦名・佐島エリアで事業を展開している浄楽寺は、同寺敷地内にある築120年の古民家を改装した宿泊施設「TEMPLE STAY KAN〜観〜」を11月29日にオープンさせた。本来は僧侶や巡礼者が修行や宿泊をする「宿坊」を軸に、地域の事業者らと協力し、食や体験などを提供。観光客を地域全体へと誘客することで、日帰り型観光からの脱却を目指す。

 同寺は、鎌倉時代の有力御家人であった和田義盛創建。安置されている阿弥陀三尊、不動明王、毘沙門天(いずれも国重要文化財)は、義盛が発願し、運慶が造像したなど、武士の祈りを受け継ぐ寺院だ。運慶はこの造像で、彫眼と玉眼を使い分けるなどの新たな表現に挑んだことから、同寺は「決心の地」と位置付けられている。また、同寺は「日本近代郵便の父」前島密の墓所も有す。

 事業の核となるのは、これらの歴史的ストーリーだ。戦乱の世を生きた武士たちや偉人に思いを馳せ、ろうそくの明かりだけで運慶仏を拝観する「暗闇参り」=写真=や写経を通じて先人の思いを追体験し、自分自身と向き合っていく。VRゴーグルを用いて、かつての運慶や義盛公の発願をなぞるユニークな試みや読経体験などもある。

 また、前島密の精神にちなみ、日頃の感謝の言葉を葉書に書いて投函する「感謝はがき」や、鎌倉彫体験なども用意されている。

 食体験では、江戸時代末期の豪農・浜浅葉家の当主が残した「浜浅葉日記」に記される食材や風習などに基づき、食文化を再現。秋谷のイタリアンレストランがジビエ料理などを交えながら提供するほか、寿司握り体験、近隣で採れる草花を煎じた「野草茶」などを用意している。

 考案者の土川憲弥副住職は「三浦半島の歴史や文化を『武家文化800年』という統一コンセプトで捉え直し、観光促進につなげていければ」と話し、ビジネスモデルを三浦半島全域に横展開していきたい考えだ。

 宿泊は一日一組限定で貸切。詳細は同寺HPを確認する。

職人直伝の花火玉 子どもらが製作体験

 花火玉のレプリカをつくる体験会が11月29日、いちご よこすかポートマーケットで初開催された。(一社)横須賀市観光協会の主催。共催は横須賀市・(一財)シティサポートよこすか。小学生から中学生まで40人ほどが参加した。

 10月に行われるはずだった「よこすか開国花火大会」の関連企画。同大会でも打ち上げを担当する予定だった(株)マルゴーの職人を講師に迎えた。花火の色や濃淡が決まる火薬の配合など、花火玉の製作過程を職人が一から説明すると、子どもたちは興味深そうに耳を傾けていた。

 この日、参加者が作ったのは、上空で開花すると直径100mほどになる「3号玉」のレプリカ=写真。2つの半球の合わせ目をテープで留め、クラフト紙を玉の表面に厚みが均等になるよう貼り付ける工程を、職人のアドバイスを受けながら製作した。
小谷会長(左)と上地市長

「感謝の広がる街」願い込め 横須賀商議所女性会が寄付

 女性経営者らで組織する横須賀商工会議所女性会による恒例のクリスマスディナーショーが11月29日、メルキュール横須賀で開かれ、総勢約250人が参加した。

 同会は女性の視点で地域経済の振興に寄与していくことをめざす団体。今年度、創立50周年を迎える。

 今回も横須賀市の「よかった ありがとう基金」に30万円を寄付したほか、経済的な事情を抱える中学3年生を対象にした学習支援事業「ゆめ塾」への軽食支援を継続的に行っている。寄付の贈呈式では、上地克明市長から小谷光子会長に感謝状が手渡された。

 ショーのステージには、横須賀のロックマインドを届けている「ドブイタ トラベリン バンド」が出演。上地市長もボーカリストとしてステージに立ち、自身が作詞した楽曲などを熱唱した。

記念講演に小泉大臣

 この日のショーには、小泉進次郎防衛大臣も姿を見せて記念講演を行った=写真。この中で、安全保障環境が戦後最も厳しさを増していることに言及。自衛隊の人材確保が急務である現状を訴えるとともに、市内にある陸上自衛隊高等工科学校を2年後から陸・海・空の共同運用に改組し、初めて女子生徒の受け入れを開始することを伝えた。小泉大臣は「地域社会が温かく迎え入れる環境づくりに協力してほしい」と呼びかけた。

三浦市 「茜身」うまさ じゅわっ 小中学校給食でカツ初提供

 マグロやカジキの血合い肉を「茜身」とネーミングし、新たな特産品としてブランド化を目指している三浦市で11月27日、市内小中学校の給食で、カジキの「茜身カツ」が初めて提供された。児童と生徒らは口いっぱいに詰め込み、笑顔を見せていた。

 血合い肉は、腹と背の部分にある赤褐色の部位を指す。大腸がんの発生や血圧上昇の抑制効果に加え、生活習慣病の要因となる活性酸素を取り除く「セレノネイン」と呼ばれる成分を多く含んでいることが判っている。継続的に食べることで健康の維持や未病の改善に役立つとされている。

 このような経緯から、市内のマグロ関連団体により旗揚げされた「まぐろ未病改善効果研究会」などが、名称の募集や飲食店の認証制度などに取り組んできた。

 この日提供された給食は、羽床総本店(海外町)が下ごしらえを済ませたカツ。三崎小学校3年生の寺山新一郎さんは、「しょうゆの味がして、食感は鶏肉のようで美味しい」と満足げな様子だった=写真。

 市教育委員会によると給食の定番化を視野に検討を進めているという。
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走りを競うミニベロレースが開かれた

可愛いだけじゃない 「ミニベロ」ファン城ヶ島集結

 タイヤ径20インチ以下の小径自転車をさす「ミニベロ」のファンミーティング「MINIVELO CARNIVAL MIURA」が11月29・30日の両日、三浦市の城ヶ島公園で開かれた。今回で2回目。自慢の愛車を持ち込んだ約50人の愛好家が集まった。

 主催は葉山町でヴィンテージサイクルの専門店「葉山自轉車市場」を営む門脇大作さん。神奈川県や三浦市の協力を得ながら、自転車を活用した観光コンテンツの開発に乗り出している。

 参加者は城ヶ島周辺の決められたポイントをめぐるサイクルラリーや園内に設けられた周回コースでレースを楽しんだ。

 横浜市金沢区から訪れた堀内孝一さんは、ミニベロの魅力を「デザインやファッション性だけでなく、走行性能をアップするためのカスタマイズの多様さがマニアの心を惹きつける」と説明。同じ趣味を持つ愛好家らとの交流を楽しんだ。
特製たれで臭みを消したマグロの茜身

三崎マグロの血合い肉 読者プレゼント 「茜身」を新たな特産品へ

 三浦市では、三崎マグロの「血合い肉」を新たに特産品化しようと、公民連携による取り組みが進められている。

 生臭さもあり敬遠されがちだが、未病の抑制に効果的とされる抗酸化成分を多く含むことで価値が見直されている血合い肉。イメージアップを図ろうとネーミングを公募し、昨秋「茜身(あかねみ)」と命名された。調理次第で味も食感も牛ハラミ肉のようになり、地元ではメニューとして提供する飲食店も増えている。

「茜身のたれ漬」進呈

 同市三崎の料理店「くろば亭」で提供している「茜身のたれ漬」(220g・冷凍)を読者10人に進呈。希望者はメールの件名を「茜身」とし、〒・住所・氏名・年齢を明記して【メール】yokosuka@townnews.co.jpへ送信。12月15日(月)締め切り。発表は引換券の発送をもって代える。当選者は、12月29日(月)・30日(火)に年末特別セールを開催する三崎朝市会場に引換券を持参し、指定の場所で賞品と交換する。
久里浜海岸

三郎助を追う 〜もうひとりのラストサムライ〜 第23回 文・写真 藤野浩章

「分かるのはただ一つ、朝廷をはじめ水戸、長州、薩摩などの攘夷(じょうい)論が一層激しいものになり、争いが起きるのは必定(ひつじょう)、ということでござる」



 ペリー側の要求について、幕府の協議は難航した。江戸に知らせが着いてから4日。幕閣からの指示を今か今かと浦賀では待っていたが、その間に艦隊が江戸湾の測量に乗り出すなど、奉行所はまさに板挟みの対応を迫られていた。

 冒頭のセリフは、三郎助の父・清司(きよし)のもの。もし米側の要求を入れて開国すれば他国も続き、それが攘夷を沸騰させるというのだ。しかしこの時は幕府の総力を挙げれば攘夷派の鎮圧は容易、と末端の旗本なども楽観視していたという。

 やがて届いた幕府の指示は「(国書を)受け取るだけ」。こうして、交渉の一切無い"無言の外交セレモニー"が決定したのだ。

 奉行所は直ちに準備に取りかかり、手狭な浦賀ではなく久里浜海岸の砲術演習場に応接所として仮陣屋を急遽建設することに。久里浜の名主鈴木弥左衛門の指揮で、百名を超す大工が昼夜兼行で建設した。「間口八間(約15m)、奥行五間(約9m)の建物」だったというが、ペリーの『日本遠征記』によると「松の木の柱や板に番号が付いているのは、前もって設計通りに作って現場に運んで手早く組み立てたのだろう」とある。将軍や大名が急遽訪れる時にはよく採られた工法で、言わば日本の得意技と言えるものだった。

 さらに労働力として、奉行の支配地である三浦半島中南部の須軽谷(すがるや)から農民や漁民たちを動員。久里浜海岸は突如として騒然とし始めた。