――ふじさわ「まち・ひと・しごと」ビジョン―第3期藤沢市まち・ひと・しごと創生総合戦略―が今年4月に策定されました。地域が目指すべき理想像の欄には「ウェルビーイング」の言葉が盛り込まれています。ウェルビーイングと藤沢市との関係、思いなどについてお聞かせ下さい。
「コロナ禍を経て、改めて人の和やつながりの重要性を認識し直した中で、市民にとって大事なことは、その人らしくいられること、快適に生活できること、という思いを強くしています。それが「ウェルビーイング」の理念と合致し、まちづくりの軸であると考え、人へのウェルビーイング、まちへのウェルビーイングの2方面からの施策を展開しています」
――ウェルビーイングに関する市内の現況は。
「施策の実現度などを調査する市民意識調査にある「誰もが快適に暮らせ、居心地の良いまちであること」の問いでは、昨年度80・1%でした。過去5年でみても、80%以上を保持。この結果は多くの市民が快適で、その人らしくいられるまちだと感じていると理解しています。藤沢市が持つさまざまな資源を活かし、利便性やエンターテインメント性を高めつつ生物多様性も大事に、人や自然と調和したまちづくりを進め、さらに多くの市民に藤沢の魅力を実感してもらえるよう、市民目線での市政を今後も展開していきたい」
――好事例は。まちづくり分野から。
「社会・地域課題を捉えながら、まちに関わる市民、企業、働く人との共創を通じ、サスティナブルに進化し続けるまちづくりに取り組んでいます。「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」は昨年、まちびらき10周年を迎え、日本を代表する実稼働のスマートシティーで新たに包括連携協定を結び、「まちづくり」「環境」「健康・つながり」をメインテーマに取り組みを進めており、市の魅力アップや地域の活性化、市民サービスの質的向上を目指しています」
――健康分野では。
「人生100年時代を迎え、全ての人がいつまでも住み慣れた地域で、心身ともに健康でいきいきと暮らすことを目指し、取り組みを展開しています。村岡地区は「湘南アイパーク」を中心に最先端の研究開発拠点が形成されており、幅広い業種や規模の産学官が結集。ヘルスイノベーションを加速する場として、多様な企業・団体が集積しています。最新技術やビッグデータを活用し、個々の健康を増進する取り組みが進み、村岡地区の市民を巻き込んだ企画も始まっています」
――環境・産業分野はどうでしょう。
「環境保全と産業振興などのトレードオフや、そのシナジー効果を考慮しながら施策を進めることは、SDGsの達成に向けて重要だと捉えており、都市拠点の整備と自然環境との調和の両立を進めています。昨年実施したシティプロモーションのアンケートでは、藤沢市の魅力を「海・田園・川などの自然が豊か」と答えた人が最多でした。遠藤笹窪谷公園は湿地や樹林、草地などの多様な環境があり、そこに多くの生き物も住み、良好な自然環境を有しています。こうした貴重な自然環境を保全しつつ、地域の活性化を図っています。藤沢の「食」を支え、水源のかん養、治水、田園景観といった多様な機能のある水田や畑など農地の保全・整備も”自然豊かな環境都市ふじさわ”を守っていくために大事なことです」
――ウェルビーイングなまちを実現する上での課題は。
「これからは経済的な価値観を求めるだけでは、多様な人々と良い関係を築けないと考えています。人口構造の変化や人口増減を見据え、『私』という一人称ではなく、『私たち』という複数形を意識し、人と人とがつながっていくことを目指した施策展開が必要と考えています。例えば、今後ますます加速すると思われる人手不足や担い手不足の問題、また多様なライフスタイルによる地域コミュニティーの希薄化も懸念されますので、つながる機会を増やしていくことが大切です。先ほど述べた市民意識調査は毎年行っていますが、重点施策への重要度を見ると「地域で災害への備えができていること」が最も高い。市民が重要とすることを施策展開し、それを実感してもらいたい。災害への対応は、地域や一人ひとりの行動や準備も重要なので、広報周知などの機会を増やすことが課題と感じています」
――こうした課題を踏まえ、今後予定している施策はありますか。
「人への施策としては、少子化が進む中で、子どもや若者が安心して暮らせる「こどもまんなか社会」の実現に向け、子ども、若者が施策に対する意見を表明し、その意見を施策に反映することを含めた仕組みを構築すること。また多くの人が亡くなる「多死社会」にも突入しています。地域で身近に相談ができることや介護・在宅医療の需要拡大に向けた体制の構築、それぞれが望む最期を実現するための『尊厳』を大事にしながら安心して暮らせる地域づくりを進めていきたいです。人手不足や担い手不足の対応としては、建設DXを挙げます。建設部門での働き方改革を進めるため、情報共有システムを導入し、工事現場での確認作業や書類のやりとりの効率化を図ります。今後の建物の維持管理にもそのシステムの活用により利便性向上が期待できます。安全安心への対策では、津波避難対策として長距離避難を必要とする片瀬海岸3丁目で津波避難施設の整備を進め、夏頃の完成を目指しています。災害時でも、その人らしさ、尊厳のある生活を送れるよう、飲料水、トイレ、電源の確保といった避難所での生活環境の改善に取り組んでいきたいです」
――まちへの施策は。
「老朽化した藤沢市民会館、および旧南市民図書館の建て替えに合わせ、市民ギャラリーなどの近隣公共施設(機能)の複合化、奥田公園の活用、ならびに周辺地域の内水浸水対策施設の整備を行う事業『OUR Project(生活・文化拠点再整備事業)』が始動しています。生活・文化拠点を育てるプレイヤーとなる市民、団体、地域コミュニティーや行政、民間事業者らが『出会う』『つながる』を創出し、知的好奇心を刺激する場となり、藤沢らしい取り組みが生まれる『地元創生の場』としていきたいです」
――最後にウェルビーイングなまちに対する将来的な展望を。
「市民生活の基盤としてまず安全安心があり、平和や人権がある。そして地球環境が守られ、市民が健やかに過ごせることが大事だと考えています。少子高齢化や人口減少の問題も先々やってくる中にあり、藤沢が湘南の元気都市としてあり続けるということが大事な使命。これまでも一貫して人々の生活の暮らしやすさを目指してきました。その思いは変わらず、『郷土愛あふれる藤沢〜松風に人の和のうるわし 湘南の元気都市〜』をめざす都市像として、人づくり、まちづくりを大事にする市政を担っていきたい。マルチパートナーシップの下に、あらゆる人々と共に、それぞれが活躍できるまちづくりに努め、誰もがやりたいことが実現できる社会へ。一人ひとりの光が集まり、大きな輝きにして、未来を照らしていくことが、ウェルビーイングなまちにつながっていく。課題も多いが、それを糧に成長し、2030年のSDGsのゴール、その先にあるウェルビーイングの実現を目指していきたいです」