伊勢原 コラム
公開日:2025.09.11
【寄稿】
伊勢原市の稀有な「汐汲み神事」に密着
タウンニュース市民ライター「相模国神社祭礼・添田悟郎」
伊勢原市下糟屋に鎮座する高部屋神社では、毎年9月の第3日曜日に例大祭が行われており、その1週間前の土曜日に「汐汲み神事(汐汲みの儀)」が執り行われている。全国でも珍しいこの神事に密着した。「相模国神社祭礼」は神奈川県内(旧相模国)の神社の祭礼を中心に紹介するウェブサイトで、伊勢原市在住のわたくし添田悟郎が運営している。当サイトは神社祭礼の活性化を主な目的とし、文献調査と実際の祭礼の取材を行っている。
高部屋神社は平安時代中期の『延喜式』に記載されている、相模国13座の1社と非常に格式が高く、同社の社殿(本殿・拝殿・幣殿)は2016年に国の有形文化財に登録されている。「汐汲み神事」は、平安時代から大磯の照ヶ崎海岸で行われていたとされ、江戸時代までは僧侶が祭司を伴い執行したという言い伝えがあり、当時は、徒歩で照ヶ崎を往復していたと思われる。当神事は明治初年頃の廃仏毀釈(神仏分離)の影響により途切れてしまい、その後は神社総代が使者として大磯まで出向き、海水・海藻・浜砂を採取して高部屋神社に持ち帰っていた。そのような状況で、全国でも非常に珍しい高部屋神社の汐汲み神事を復活させたいという思いから、1868(明治元)年から150年目の節目にあたる2017年に正式な神事として復活させ、同年の9月9日に約150年ぶりの汐汲み神事が行われた。
台風一過 波打つ海に当時への思い馳せ
今年の高部屋神社の例大祭は9月14日(日)で、汐汲み神事は9月6日に行われた。前日に台風15号が関東を通過するなど、汐汲み神事当日の天気が心配されたが、その日は天候に恵まれただけでなく、雨のお陰でそれまでの猛暑が和らぎ、神事を行うには丁度良い天気となった。
早朝、神事の関係者は神事で使用する道具(忌竹・注連縄・供物など)をトラックに積み込むと社務所前に集合し、氏子総代の挨拶により御神酒で身を清めてからお宮を出発した。トラックと参列者を乗せた乗用車は県道61号(平塚伊勢原線)を南下し、国道1号(東海道)を大磯方向へ進み、大磯港の駐車場に到着。そこからは、トラックの荷台から荷物を手で運んで照ヶ崎の海岸まで移動した。
高部屋神社は山側にあるせいか、海岸に足を踏み入れると砂を歩く感触や磯の香、目の前に広がる広大な海と水平線、そして、前日の台風により若干荒くなった打ち寄せる波がより一層、違う土地にやって来たという感覚を強め、明治以前に徒歩で移動して来た汐汲み神事の参列者たちには、更にこの新鮮さが身に染みていたものと想像された。一行は神事を行う場所に移動すると、砂浜を清掃してから忌竹(結界)と祭壇を設置し、神事に向けて服装を整える。なお、祭主である伊勢原大神宮の宮司と付き添いの神職1人は、高部屋神社には寄らずに直接この照ヶ崎の海岸を行き来する。
準備が終わると参列者は忌竹の前に集まり、氏子総代の挨拶で汐汲み神事が開始されると、修祓や献饌、祝詞奏上などが行われる。神事の途中で白装束の3人の使者役が順番に呼ばれると「オー」という返事をし、3人は海へ入って海水、馬尾藻(ホンダワラ)、浜砂の順で採取し、これらは宮司に手渡されて祭壇に奉納される。なお、ホンダワラは事前に入手したものを重石に結び付けて海に沈めておき、鎌(カマ)で根元を切り取って採取する。その後は玉串拝礼や撤饌などが行われ、最後に宮司の挨拶で約30分間の神事が終了した。持ち帰った浜砂は同神社例大祭の「浜砂撒きの神事」で清めの塩の代わりとして神社周辺に撒かれ、海藻は鳥居の注連縄に飾られる。海水は火難除けを祈願して、「鎮火水」として地元の消防団が地域を回る際に建物などに撒かれる。
神事を末永く後世に
取材を始めて最初に感じたことは、僅か30分の神事であるにもかかわらず神事に必要な道具が多く、準備には予想以上の人出と労力がかかるということである。次に感じたことはその移動距離で、現在は自動車を使って40分程度の移動時間であるが、かつては片道15km(往復30km)程の道のりを徒歩で移動していたことを考えると、移動時間だけでも片道4時間(往復8時間)前後は必要だと思われ、照ヶ崎での神事、さらに高部屋神社での準備と片付けを考えると、昔の人の苦労が偲ばれるのである。
この取材を通して一番感動したことは、3人の使者が海水、ホンダワラ、浜砂を採取する場面を実際に目にしたことで、全国的に見ても非常に珍しい神事であることを実感することができた。近年、多くの祭礼において少子高齢化や人材不足が問題となっていて、汐汲み神事に関しても継続は簡単な事ではないが、この素晴らしい神事が後世に末永く伝承されることを祈願したい。また、昨年2024年に高部屋神社の宵宮と例大祭を取材した様子を「相模国神社祭礼」にレポートした。
タウンニュース市民ライターとは
「タウンニュース市民ライター」とは、(株)タウンニュースが認定する、地域の市民ライターです。市民の視点で地域の魅力を再発見し、情報を発信してもらいます。
- 関連リンク
- 相模国神社祭礼
ピックアップ
意見広告・議会報告
伊勢原 コラムの新着記事
コラム
求人特集
- LINE・メール版 タウンニュース読者限定
毎月計30名様に
Amazonギフトカード
プレゼント! -

あなたの街の話題のニュースや
お得な情報などを、LINEやメールで
無料でお届けします。
通知で見逃しも防げて便利です!













