被災地の思い 伊勢原へ 福島から日向山荘に油絵
「被災地の現状に目を向けて。東日本大震災の記憶を風化させないで」。そんな思いが込められた2枚の油絵が、日向にあるキャンプ施設「日向山荘」の食堂に展示されている。絵の作者は福島県伊達郡に住む長谷川亜紀さん(38歳)。今年9月に山荘を訪れた長谷川さんは、福島へ戻ると一週間で絵を描き上げた。長谷川さんをキャンバスに駆り立てたのは一つの出会いだった。
2枚の絵は、縦横およそ80cmほど。「福島犬は負けないぞ」と題する作品は、津波をイメージした銀色の貝殻に犬が横たわる。震災に負けない福島県人を表現している。もう一方の「福島の復興への祈り」は、地蔵が神の象徴である昇り龍と描かれ、被災地の復興を祈る様子が描かれている。
もともと心の病を抱えていた長谷川さんは震災後、農家を営む知人ら7人を亡くした。原因は原発による風評被害で皆、自ら命を絶った。こうした出来事が長谷川さんにとって大きな傷となり、心を閉ざす毎日を過ごすことになった。
そんな長谷川さんを夫や友人がキャンプに誘った。9月14日、日向山荘にやって来た一行は、釣りやバーベキューを楽しみ、つかの間だが震災のつらさを忘れることができた。
「長谷川さんとはすぐに意気投合。たくさんお話をしました」。日向山荘を営む八木宏さん(55歳)は振り返る。今年7月、ストレスから体調を崩し、入院した八木さん。手術は成功したものの、今も心の病と闘っている。同じ苦しみを持つ長谷川さんと八木さんは互いに打ち解けた。長谷川さんは胸にしまっていた震災の記憶を打ち明けるうち、少しずつ笑顔を取り戻した。その様子に八木さんも元気をもらったという。
福島に帰るとすぐキャンバスに向かった。イラストレーターの仕事をしていた20代のころによく絵を描いていたという長谷川さんは、一週間で作品を完成させ、八木さんに贈った。長谷川さんは「八木さんに託した絵を多くの方に見てほしい。また伊勢原にも行きたいです」と話している。
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