靴作りと出会って 松本三番街に佇む「ハドソン靴店」。ガラス張りの店内で、若い男性が1人で黙々と作業をしている。
村上塁さん(31)がこの店で働き始めてから、2年半近い月日が経った。「初めの頃は全然お客さんが来なくて大変でした」と笑って話す物腰は、非常に柔らかい。「ハドソン靴店」は、横浜マイスターにも選ばれた故佐藤正利さんの経営していた店。約3年前に亡くなり一時は閉じていたのだが、店を残したいと願う佐藤さんの妻が、最後の弟子である村上さんに声をかけ再開した。「僕が教わった頃には、既に半隠居状態でした。それでも、優しくなんでも教えてくれた」。生活もままならない下積み環境から抜け出したいと考えていたこともあり、師の店を継ぐことにした。
昔から手仕事に憧れていたという村上さん。大学では工学系の学部で車の内部部品作りを学んでいたが、「目に見えるものを作りたい」との想いが徐々に強まったという。そんなある日、たまたまテレビ番組で靴職人を目にした。「これなら今からでもできるかも」と大学を中退し、専門学校へ。
実は、専門学校も中退している。「学校ではデザインなどが中心。靴作り自体を学びたかった」と、専門学校の先生に紹介された職人のもとで修行することに。これまでに3人の職人に師事し、そのうちの2人目が佐藤さんだった。ハドソン靴店には2年ほど通い、靴作りの基礎をすべて教えてもらった。
あまり良いとは言えない立地条件ながら、口コミで来客は増えている。安さや速さを売りにする靴修理店が増える中、一人ひとりの客としっかり向き合ってきた結果だ。「この辺りの人は、手仕事に理解がある。しっかり向き合い、責任を持って仕事をすればわかってもらえる」
理想は「街の靴屋さん」。この土地に溶け込み、靴で困った時には自然と足が向く。そんな場所に、なりつつある。
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