大正末期〜昭和の北山田から 第22回 都筑区の歴史を紐解く 文・絵 男全冨雄(『望郷』から引用)
十五夜
農村の月はきれいだった。空気の汚れはないし、静寂そのものであった。
十五夜にはどこの家でも、縁側に机を出し、その上にススキなどの秋の七草を飾り、柿、栗、さつまいもなどを十五個供え、ぼた餅も十五個お皿に盛り供えられていた。
農家で甘いものが食べられるのは、お彼岸、稲の刈り上げなど、限られた時だけだった。だから健康であり、労働に耐えられたのではないか。
娯楽とてない若い者の悪戯に、ぼた餅をいかに家の者にさとられず失敬するかがあった。
二、三名に別れて暗闇から悟られぬよう近づき、縁側の側まで這いずり、そっと手を出し取ろうとしたら、そこのお爺さんが、月見をしている家族に「皆こっちへ来な。お月さんがぼた餅を取りに来なった」と言われ、手を引っ込めることもできず、吹き出してしまった。
思いやりのある家族にご馳走になり、月夜の道をきれいだなあと、駒下駄を引きずりながら帰路についた。
◇ ◇ ◇ ◇
澄む月に 誘いたくなる 田圃道/秋の月 靴音消えて 山に浮き/月に濡れ 落ち葉動かず 空深く/寝苦しき 昨夜車が 狐跳ね/拍子木の 音凍てし夜 火の用心/霜柱 月夜に光り 針を踏む/白き泡 月夜に蛍の 露の宿/せせらぎの 音のみ消えぬ 月すみて/夜回りの 足音消えて 寝つかれず/遠吠えに 拍子木合わせ 露を踏み/無縁仏 弔う現場 芝枯れて/読経に 靴底冷えし 無縁仏/釈迦祭 桜の下で 椿差し
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