映画に流れる｢時間｣感じて

　○…祖父母が暮らしていた上飯田町を舞台にした映画「上飯田の話」をこのほど、都内の映画館で上映する。監督として手がけた作品では初の劇場公開となる。３つのショートストーリーからなり、共通するのは「上飯田にやってきた人が、誰かと仲良くなる話」。撮影は上飯田ショッピングセンターの協力を得て、町の人と交流しながら進めた。「映っている町とともに、緩やかな時間も感じてもらえたら」

　○…映画作りのきっかけはオーストラリアに留学していた高校時代。映像制作の授業の中で、その面白さにふれた。東京造形大学映画専攻領域に進んだ後、社会を知るためにと５年間は会社員として過ごしたことも。念願だった東京藝大大学院の映像研究科映画専攻監督領域で再び学び、この春に卒業を迎えた。

　○…今作のきっかけは祖父の死。コロナで大学院が休みとなり、映画でも撮ろうかという矢先だった。荷物の片づけを手伝いに祖父の家に通う中で、上飯田ショッピングセンターを知ったという。その雰囲気に一目で惹かれ、「なんとも味のある場所。これはいつか撮りたいなぁと」。今作の撮影は２０２０年。作中の一場面にも登場する祖父母の家はその後、売却されて取り壊されている。「町も少しずつ変わっていく。あの時に撮れてよかった」

　○…映画を撮るにあたっては「監督の思い通りに進んでいくことよりも、思いもよらないことが起こる方が面白い」と想定外を楽しんでいる。関わる人たちとの人間関係の構築こそ、映画を撮る大きな理由のひとつと言い、「この物語をみてほしいとか、何かメッセージを伝えたいわけではないんです」。それでも「たくさんの人に、映画の中の時間を感じてもらえたら」と願う。