「夏の思い出」や「ちいさい秋みつけた」など、今も歌い継がれる童謡の作曲者として知られる中田喜直氏。いずみ野小や葛野小などの校歌も手掛け、１９６８年から２０００年に亡くなるまで旭区柏で過ごした。８月１日には生誕１００年を迎え、本紙では妻の中田幸子さん（87）に名曲誕生の秘話、喜直の素顔について聞いた。

　喜直氏は「早春賦」を作曲した父・章のほか、兄の一次も作曲家という音楽一家に生まれ、幼少期からピアノに親しんだ。幸子さんによると「小学生の頃には自分でハーモニーを考えることができていた」という。

　小学生の頃には、詩人の西條八十が編んだ詩集「日本童謡集」の中の詩にメロディをつけるといった早熟ぶりを示していた。

　その後、東京音楽大学(現・東京藝術大学)ピアノ科に進学。手が小さくピアニストとしての道は断念したものの、作曲家としての一歩を踏み出そうとしていた。

　そんな矢先、太平洋戦争が立ちはだかる。陸軍飛行隊に所属し、戦友の死を数多く経験した。

　終戦後の１９４７年、抑圧された状況から解放されたためか、「天から音が降ってくる」という体験をし、作曲家への道を一気に駆け上がった。

｢詩を大切に｣作曲へのこだわり

　喜直氏は詩を最も大切にしていたという。「先に詩があり、そこから情景を浮かべてメロディを乗せていた。自分に合わなければ作曲を断っていた」と幸子さん。

　サトウハチローとのタッグで、１９５５年にＮＨＫの依頼で誕生した童謡の名曲中の名曲「ちいさい秋みつけた」も同様。喜直氏は「サトウさんの詩にはリズムがあり、曲が作りやすい」と語り、サトウさんは「私の詩はすべて中田に回してくれ」と話すほど全幅の信頼を置いていた。

　「夏の思い出」の作詞者である江間章子さんとも名コンビだった。当時尾瀬に行ったことがなかった江間さんが、想像で作詞。喜直も足を向けたことが無かったものの、詩から情景を浮かべ、曲を作り上げたエピソードが残っている。

フェリスでの夫人との出会い

　喜直は１９５３年にフェリス女学院短期大学音楽科講師に就任。同大学の声楽科に通っていた幸子さんと出会い、卒業後に結婚した。

　１９６８年には、当時住んでいた東京・三鷹から、幸子さんの実家があった柏町に移住。自然が豊かな環境での生活を望み「こども自然公園をよく散歩していた」と幸子さんは明かす。

　多数の童謡を作曲してきた喜直氏。幸子さんによると「童謡は言葉からくる温かさ、優しさを感じることができ、聴いて育った子に悪い子はいない」と考えていたという。幸子さんは「作曲家が亡くなると作品は忘れ去られる」と危機感を持ち、「夫の仕事を後世に残していきたい」と先を見据える。

　喜直は晩年、自らが指導する、地元の人を集めた女声合唱団「みずばしょう」を結成。亡後は、幸子さんがその遺志を受け継ぎ、旭区を中心に活動を継続している。

校歌も多数

　童謡の他に、校歌も多数作曲した喜直氏。区内ではいずみ野小学校や葛野小学校などの校歌を手掛けた。校歌の作曲については、作詞者とともに可能な限り現地に行き、曲作りの参考にしていたそう。

　横浜歴史博物館では10月１日まで中田喜直展も開催中。詳細は同館ホームページにて。