仕事で培った技術を生かし起業するシニアがいる一方、社会問題への関心がきっかけで起業した人もいる。
村上孝博さん(66)は、米の粉を使用した「米粉パン」の販売を通して米の消費拡大に貢献し、耕作放棄地の減少や食料自給率の向上を目指す「カフェらいさー」(南区)を開いた。長年、銀行員として働いていた村上さんは退職するまで、起業への思いもパンを作ったこともなかった。きっかけは退職後に受けたハローワークの職業訓練講座。農業や米粉パンがテーマだった同講座で、現代農業が抱える課題を知り、「社会のためになることをやろう」と起業を決意。パン作りを学び、約1年のテスト販売を経て、2013年、63歳の時に同店を開いた。店頭には十数種のパンが並び、多い日は80個ほど売れる。
大きな目標に一人で向かっていくというわけではない。村上さんは「私と同じようなことを考えている人」が増えてほしいと話す。多くの人が、自分と同じ方法で農業に貢献できるよう、自身がモデルケースとなることを想定。あえて少ない資金と少ないリスクで店を運営するよう努めてきた。「起業はリスクがある。しかし、実際に私が楽しそうにやることでほかの人に『私にもできそうだ』と思ってもらいたい」。志を同じにする人が後に続くことを望む。
「挑戦することやめないで」
シニアと呼ばれる年齢での起業について「不安はなかった」と言い切る。村上さんの心にあったのは不安感より「やる気」だった。今では店の運営が生きがいだ。何かを始めようとしている人に対して、村上さんは語る。「始めてみると思ってもみなかった楽しいことがいっぱいある。リスクの分析は必要。でも、頭で考えただけで挑戦することをやめないでください」(了)
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