日本人女性と米兵との間に生まれた混血児、「特殊慰安施設」で米兵の相手をさせられた女性――そんな「横浜の闇」にスポットを当てた「女たちのアンダーグラウンド 戦後横浜の光と闇」(亜紀書房)が今年5月、出版された。著者の山崎洋子さんに話を聞いた。
観光スポットとして多くの人が訪れる「山手外人墓地」にほど近い中区仲尾台にひっそりと佇む「根岸外国人墓地」。その一角に、2本の木を重ね合わせただけの十字架が、昔はびっしりと立っていたという。そこには、日本人女性と米兵との間に生まれた嬰児約800人が眠ると言われている。
山崎さんがこの墓地の存在を知ったのは1997年、初のノンフィクション「天使はブルースを歌う」の取材を通してだった。20年以上たった今、「もう一度、調べ直そう」と思った理由が、「女たち――」の冒頭に書かれている。横浜市役所に取材拒否をされた山崎さんは「この開放的な街には隠さねばならないことが、少なくとも行政はそう信じているらしい歴史があることをあらためて思い知った」(著書より)と書く。「犠牲になった沢山の人のことを、なかったこととして消すことがたまらなく嫌だった」と振り返る。
本著では、横浜だけでなく札幌やタイに飛び、時代に翻弄され闇に葬られた女性やその子どもの生き様を追う。「進駐軍は当時、日本全国にいた。だからこれは横浜だけではなく、日本のどこにでもあった話なんです」
いつ同じようなことが起こるか分からないと現代の社会情勢も危惧する。「戦争しないようにしましょうと言いながら、喉元過ぎれば熱さを忘れる。『自分の国さえよければ』と考える人も増えている。怖いことだと思う」。だからこそ、過去にあった事実が埋もれないよう伝えることの大切さを訴える。
一方で希望がわいてくる出来事もあったという。2018年、横浜市都市発展記念館で米軍接収時代の横浜の浮浪児や混血児、赤線の女などの赤裸々な写真を展示する写真展が開かれた。共催は市教育委員会。「多くの人が訪れ好評だったと聞きました。一時期タブー視されていたが、きちんと歴史を見つめよう、という傾向が出てきたのかもしれない」と笑顔をみせる。
今年、緑が豊かで海のある場所でゆっくり暮らしたいと金沢区に引っ越した。「どう仕事に生かすか関係なく、勉強ができる環境になった」。興味があるのは日本の歴史や宗教学。「歴史は人間。今まで知らなかったことをこの地で学べれば」
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