大山阿夫利神社下社下の飲食店付近から山頂の茶屋まで、荷物を背負って運ぶ男性がいる。この男性は歩荷(ぼっか)と呼ばれ、日本の各地に存在するが、大山では唯一の存在だ。
男性は横浜市在住の北樋口康さん(53)。職業はイベントのグッズ制作などを手がける会社の代表。週末に大山で歩荷をしている。
北樋口さんが歩荷を始めたのは15年前。中学、高校、大学と野球部に所属していたほどのスポーツマン。結婚後、体重が100kgまで増加したことから、減量のために行っていた、デュアスロンのトレーニングのため大山を登っているときに山頂の茶屋の主人と遭遇。興味がわき許可を得て始めたという。「頼んでやらせてもらっているのでもちろん無償です。仕事ではない。趣味です」と北樋口さん。体を鍛えることが好きで平日も仕事終わりにジムに通い毎日トレーニングをするほど。トレーニングの一環で始めた歩荷がいつしか楽しくなり、歩荷の虜になった。
総重量は70kg超
背負子に、約13kgある500ミリリットルのペットボトルの箱を5箱、背負子の重量5kgと合わせて70kgを超える荷物を背負って、大山阿夫利神社下社から2時間半ほどかけて山頂まで登る。
始めた当初は30kgほどだったが、3年ほど前から70kgまで担げるようになったという。「もっと多くの荷物を担ぎたいけれど、万が一転倒したりして登山客に怪我をさせてはいけないので、ここまでと決めている」と話す。
大山の歩荷は、山頂の茶屋の店主である石井和男さんのお墨付きをもらっている北樋口さんのみ。15年間一度も事故がないことが誇りだ。コロナ禍以前は毎週末、大山で歩荷をしていたが、今は回数が減ったという。
荷物が体に馴染む瞬間
苦しくないのかとの問いかけには「最初は苦しいが、それすら楽しい。運んでいるうちに荷物が体に馴染む瞬間が来る」と楽しそうに話す。
人とのおしゃべりやコミュニケーションが大好きな北樋口さん。歩荷で山を通じた人の輪が増えたという。SNSで知り合った人が会いに来てくれたり、荷上げの途中で登山客が声をかけてくれたりするのが楽しい。自分が楽しんでいる結果、皆の役に立てて、喜んでくれる人がいるのは嬉しい。それと終わった後に石井さんがくれる1本の缶チューハイが最高」と笑顔で話す。60歳で引退を考えているという北樋口さん。「先のことは考えていない。後何回歩荷ができるか考えると寂しいが、それまでは楽しみたい」と話す。
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