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能面に魅入られ半世紀 綾西在住 殿村立雄さん

文化

掲載号:2018年11月2日号

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自宅のアトリエで面打ちする殿村さん
自宅のアトリエで面打ちする殿村さん

 能面に魅せられ、面を打つこと50年。趣味で彫り続けた能面は250作品を超える。かつては能面の教室で講師を務めていた綾西在住の殿村立雄さん(83)は、今も自宅のアトリエで面と向き合っている。

 殿村さんが能面と出会ったのは、公務員として働いていた時代。足柄地区にあった県の施設にある工作室で挑戦したのが始まりだった。

 木や竹の工作が得意だった同氏は、この作品を富山県の永平寺で行われた全国の能面が集まる展示会に出展。たまたま見にきていた能の舞手の興味を引き、これが縁で大阪の舞台に招かれた。

 公演後、飲みの席に参加した殿村さんは「舞台で使う主役の面を作ってくれないか」と依頼を受ける。この時に役者の顔に合わせた裏面の掘りにも挑戦した。作り上げた作品は、実際に舞台で使用されたという。

独学で手法確立

 以来、能面作りにすっかり夢中になり、働きながら趣味で面を打つ日々。同氏は知人とともに立体的な型紙を使うという独自の手法を考案し、当初から取り入れている。

 型紙は面を正面からみた平面図に加え、顔の凹凸を立体的にかたどったものを用意する。立体部分は顔の中心の縦の凹凸線1本と、横の凹凸線数本、目・口・しわなどの凹凸。通常20パーツほどを使うが、これが多いほど細かい表情が彫れるため、ものによっては100を超えるパーツを用意することもあるという。

 面の素材は、檜の角材。高い物だと1万円、安いものでも4千〜5千円するそうで、殿村さんは吉野の檜を好んで使っている。

 型紙をもとに角材に線を引いてノミで角を落とし、輪郭を取ったあと顔の縦の凹凸と横の凹凸を付けていく。この時、立体の型紙を合わせながら微調整を繰りかえす。裏を削り、表のパーツを作り込み、丁寧にペーパーで削って完成させる。

 「ここで焦ったり、手を抜いたりするとダメ。粗が出てしまう」。色を塗る前、下処理として施した白塗りを研ぎあげた際、最後のペーパーが雑になっていると下地が出てしまうことがあると、失敗例を見せてくれる。

 「理想はフチが3mmで、一番厚みがあるところで2cmくらい」と語る殿村さん。色塗りや仕上げの際のツヤ出しなど、各々の微妙な調整は体で覚えたのだそうだ。

 「道楽だからね、特にこだわりはないよ」と話すが、面を削る刃の鉄に合ったものを選ぶという「砥石」や、目の形や眉など製作時に最も重視する「面の表情」など、語り出すと細かいこだわりを覗かせる。

年老いても楽しめる面打ちの魅力

 殿村さんは寺院で開かれていた能面展での受賞歴を持つほか、神社面として納めた作品が舞台で使われている。また、再雇用で職員として務めていた戸塚の会館で、元々活動していた能面グループ「龍樹会」の講師が亡くなったため、62歳の時に後任の講師を引き受けている。

 そこでは独学でたどり着いた型紙の手法を取り入れ、教鞭を取った。生徒らと共に能面展を開き、能面の作品集や手法周知のための型紙集を作るなど、個人的な取り組みも精力的に行った。

 今は講師を退き自宅のアトリエで面打ちを行っているだけだが、依頼がくれば面の貸し出しを行っており海老名市の銀行にあるギャラリーや、綾瀬市の文化芸術祭などに出展しているという。

 能面の魅力を訪ねると「ただ、黙々と作って自分が満足してるだけだから」と頭をかく殿村さん。「でも、年老いても楽しめるのが魅力かな」と今日一番の笑顔を見せた。

作品の一部
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