綾瀬市役所1階ロビーの「工業展示コーナー」に直径20センチの「ラグビーボール」が展示されている。ボールの素材はステンレス。中身は空洞で重さは約300グラム。4枚の部品からなるこのボールには町工場の技術が詰まっている。
日本が史上初のベスト8に進出したラグビーワールドカップは、11月1日の3位決定戦と2日の決勝戦で閉幕する-。
さかのぼること1年半、「どうすれば自社の技術を見てもらえるか」悩む町工場の社長がいた。精密板金の加工技術をひっさげて工業展示会に出展するものの「手応えがなく試行錯誤していた」が、市の工業振興対策もあり近年は営業意欲を高めている。深谷南で精密板金加工の工場を営む野口製作所の野口裕社長が、ボールを「キックオフ」したその人だ。
操業55周年を迎えた同社は、大量生産ではない「一品物」の加工を得意とする町工場で、通信機器や医療機器、工作機械の試作品などに使う部品を金型から塗装まで一気通貫で製造することを得意としている。
板状の原料から型を抜き取り、絞りと呼ばれる加工で凹ませ、継ぎ目が分からないよう美しく溶接して磨き上げる。その技術を「ラグビーボール」に凝縮して表現した。
野口社長は「技術の説明は至難のわざ。すこしでも伝わればという思いでラグビーボールをつくった」と振り返る。「すべての加工段階で試行錯誤を重ねた」と話す野口さんが信頼を寄せる熟練工の古田裕司さん(59)も「このボールに自社の技術が詰まっている」と納得の表情だ。
そのボールを、市民が行き交う市役所の展示コーナーに「トライ」した。