レストランの一角に、唐突に表れる「座間放射能測定室」。その物々しい字面に、思わず怯む人も少なくない。しかし、その目的は非常にシンプルだ。「みんなに安心を」――。
レストラン「ラ・リチェッタ」(相武台)のオーナーシェフ、稲垣圭介さんが測定室を開設したのは、震災から1年が経った2012年3月。以来、食品や土壌、時には衣服まで、さまざまな物品の線量測定を行ってきた。検体を持ち込むのは、主に小さな子どもを持つ親たちだという。
震災直後、原発事故や放射能に関する情報が錯そうした。「直ちに影響がない、という人もいれば危険を訴える人もいて」。そんな時に気がかりだったのは、店で提供するために、市内で自ら育てていた野菜のことだった。「この野菜は、お客様に出しても本当に大丈夫なのだろうか」。初めは専門機関に依頼をし、安全を確認した上で出していたが、継続するためにも自前での測定を決断した。
「ガイガーカウンターと一口に言っても、信ぴょう性も作りもバラバラで」。情報を集め続け、楽器やバイクを売り払い、ようやく購入にこぎつけた。実際に手元に届くまで、半年以上かかったという。
「市民測定室」としての取り組みは子どもを持つ親たちの要望にピタリとはまった。「線量は、原発からの直線距離と必ずしも反比例しないから難しい。実際に数値で出れば、気持ちも楽になりますからね」
測定室の活動をするうえで、批判を受けることもあった。それでも私財を投じて続けてきたのは、安心を求める声の多さを実感したからだ。「放射能、などと言うとすぐに政治的なものと結び付けられてしまう。結果としてそこに感じる部分はあっても、本来は全く別な問題であるべき」
「早く、測定いらない世の中に」
被災地の子どもたちを支援する活動にも積極的に参加してきた。福島県の親子を招いて開かれた保養キャンプでは、子ども達を喜ばせようと、焼き加減でイラストを表現する「パンケーキアート」を生み出した。これが評判を呼び、テレビでも引っ張りだこに。「レストランのオーナーでなく、放射能測定でもなく、最近はパンケーキの人で名が知られちゃって」と笑う。
現在も測定を続けているが、資金不足など課題も多い。「本当は、測定がいらない環境が一番。でも、5年たっても、未だ帰れない人がいるんだから」。今日もHPを通じ、座間から情報を発信し続けている。
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