海、山と自然に囲まれた片浦地域への移住が、目立つようになってきた。人口減少、耕作放棄地拡大、後継者不足などの課題に直面する中、独自の動きによって人が集まってきている。
眼前に相模湾が広がる根府川駅。2月29日午前11時30分、市内外の単身者や家族連れなど17人の姿があった。「片浦地区空き家バンクツアー」の参加者たちだ。根府川、江之浦、米神、石橋の片浦地域に興味を持つ人々が、1日かけて空き家を巡った。
二宮町から訪れた50代女性は、「太陽の力や海の濃さなど自然の健康度が高い。移住も考えている」といい、居住者のいない一軒家を吟味した。平塚の40代女性は娘と参加。「今より利便性は下がるが、眺望はそれ以上に魅力。いるだけで癒されそう」と頬を緩めた。
ツアーは、不動産会社を通じた一般的な家探しと異なり、街の雰囲気を体感してもらうことも狙い。昼食は地元のしいたけ料理を堪能。診療所や行政機関といった生活拠点、パワースポットも行程に組み込んだ。不動産業に携わり、今回の案内役を務めた瀬戸ひふ美さん(32)は「家を紹介するのではなく、街を紹介する。地元の人や場所にふれて街を好きになってもらい、その先に家がある」。自身も片浦の街並に惹かれ、小田原市街から根府川へこの春引っ越す。
昨年から16組内覧4組が成約し移住
全国で顕在化する空き家問題に対し、片浦では独自の取り組みを進めている。地元住民らを中心に「片浦地区まちづくり委員会」が2年前に発足。会で掲げた3本の柱のうちの1つが”空き家バンク事業”だ。空き家情報を集約し、借り手と貸し手を結びつけていく。
昨年は11組、今年はすでに5組が物件を内覧。うち4組が成約に至った。東京に15年住んだ小林ひさえさんは、田舎暮らしを望んで昨年4月に江之浦の戸建てに移住。以前のマンションに比べて家賃は3分の1、広さは4倍以上、庭まで手に入れた。新宿への電車通勤は遠くなり、最寄りの根府川駅まで徒歩35分を要するが、「見渡す景色が本当にきれいなんです」と苦にならない様子。むしろ、1年前から『みちる』として始めた歌手活動において、歩いているときに歌詞やメロディーが浮かび、曲作りがはかどるという。
片浦では、家だけでなく「空き畑」の活用も見られる。東京で知的障害者を支援するNPOこげら会は、空き家を借りて新拠点を設置。さらに、米神の農家のみかん狩りや山の整備を手伝う。同会職員の松崎恵美さんは、「のどかな小田原で農業活動の幅を広げていきたい」と先を見据える。市内でも独特の雰囲気を持つ片浦が、じわりじわりと変わりつつある。
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