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都筑区 社会

公開日:2026.02.12

壁も障害も越える
「濱モンキー」が紡ぐ多様性

  • 下からメガホンを使って小林さんをガイドする内村さん

    下からメガホンを使って小林さんをガイドする内村さん

  • 小林さんからガイドの仕方のアドバイスを受ける倉本さん

    小林さんからガイドの仕方のアドバイスを受ける倉本さん

 「右手、11時、遠く」「3時すぐ近く」--。下から届く声の指示を頼りにアイマスクを装着したクライマーが手探りでホールドを掴み、さらに上へと登っていく。日曜日の昼下がり。センター北のノースポートモール地下1階のクライミングジムでは、一般の利用者に交じり、視覚障害者や車いす利用者が参加する交流型クライミングイベントが行われていた。

課題を共有できる楽しさ

 イベントを主催する「濱モンキー」は、クライミングを通して障害者と健常者の交流を図る「NPO法人モンキーマジック(MM)」が行っている『#交流型クライミングイベント』を横浜で開催するために発足した団体。昨年2月に活動を開始し、ノースポートモールの「クライミングバム」で月に1度、同イベントを開催している。

 共同代表を務める南山田在住の内村善一さんと川崎市出身の高橋加奈さんは、MMのイベントを通じて知り合った。試行錯誤を重ね、昨年団体立ち上げにこぎつけた。

 弱視の高橋さんには車いすでもクライミングをする友人がおり、自宅近くにジムもあったので興味を持っていた。ただ「弱視で一人は不安」と足踏みをしていたが、MMのイベントを知り、思い切って都内まで登りに出かけたという。「クライミングは、目が見えるから登れるわけではなく、健常者と同じ課題を共有できるので楽しかった。コミュニティが広がった」と振り返る。

 健常者の内村さんは40歳を過ぎてからボルダリングを始めた。視覚障害者も参加できるMMのイベントを知り、参加。ただ都内で月曜の夜の開催だったため、「地元で、障害のある人が登りたいときに登れる環境を作れないか」と高橋さんと相談し、濱モンキー立ち上げに至った。

 発足からちょうど1年となるが、毎回15〜20人が参加。初めて参加するという人が毎回3、4人いるという。クライミングの後には飲食をしながらの懇親会を開催。文字通り「心の壁」を取り払って参加者同士の理解を深め合っている。

先駆者の背中を追って

 MMの代表を務めるのは、ほぼ全盲の現役フリークライマーの小林幸一郎さん(57)。小林さんは16歳でフリークライミングと出会い、趣味の一つとして夢中になっていたが、28歳の時に「網膜色素変性症」という進行性の難病を発症。「近い将来失明する」と医師に宣告された。「気持ちがネガティブに陥った」と当時を振り返る。しかし、エベレスト登頂に成功した全盲のクライマー、エリック・ヴァイエンマイヤーさんのことを知り、衝撃を受けた。小林さんはアメリカまで直接会いに行く。「日本でやった人がいないのなら君がやればいい。君ならできる」と背中を押された小林さん。「クライミングには大きな可能性がある。クライミングの魅力を理解している視覚障害者の自分ならその魅力を伝えられる」と失いかけた自信を取り戻すことができたという。

 2005年に法人を立ち上げた小林さんは同年、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロの登頂に成功。さらに翌年のパラクライミング選手権の視覚障害者男子部門でも優勝するなど、現役のフリークライマーとして今なお活動を続ける。

 「濱モンキー」のようにMMの活動を地方で実施したい、という仲間には「地域密着」「定期開催」「参加者全員の交流」を条件に、『#交流型クライミングイベント』を謳うことなどを認め、技術指導などの後方支援を行っている。ノースポートモールのクライミングジムは、小林さんのガイドを務める鈴木直也さんが運営しており、「濱モンキー」の活動に対する理解も深い。

 現在「〇〇モンキー」の名称で活動する団体は22都道府県まで拡大。シンガポール、台湾でも団体が立ち上がっている。今年3月には沖縄県にも初めて立ち上がる予定で、「今年中に47都道府県の半分」の目標も視野に入ってきた。

QOLの向上に寄与

 1月18日に行われた今年最初の「濱モンキー」には20人以上が参加。視覚障害のある人でも全盲から弱視まで症状はさまざま。さらに下半身まひで車いすの参加者もいた。当日は6人ずつのグループに分かれ、健常者がガイドをしたり、アイマスクを付けて視界を遮って登ったり、一人で安全に降りることのできるオートビレイを使ってロープクライミングに挑戦したり、と思い思いにクライミングを楽しんだ。下半身まひのため、腕の力だけで登る参加者が次から次へとホールドをクリアして登頂する姿には大きな歓声と拍手が起こっていた。

 この日初めて参加した青葉区在住で健常者の倉本佐代子さんは「アイマスクを付けて登ると高さへの恐怖を感じた。ただクライミングは障害者と同じ課題に向き合えるので、一緒に活動しやすい」と実体験を語った。また「視覚障害者にホールドの位置や方向を知らせる『ガイド』が難しい」と苦戦。小林さんから、「H(方向)K(距離)K(形)をざっくり知らせてくれれば大丈夫」などとアドバイスを受けていた。

 泉区から参加した大石達也さんは全盲に近い弱視。7月から毎月のように参加している。クライミングの魅力を「難しい壁を登り切った時の達成感」と語り、壁攻略のために日々、腕立て伏せや腹筋、プランクなどの筋力トレーニングを欠かさない。イベントへの参加を通じて「以前よりも(自ら)コミュニケーションをとるようになった」とはにかんだ。

 小林さんは「自分は視力を失ってから言葉と人との出会いに支えられた。自分自身が一番の説得材料になると思うので、クライミングを通して障害者はもちろん健常者を含めてのQOL(生活の質)の向上に寄与できれば」と語った。

 「濱モンキー」の開催は2月は28日(土)、3月は29日(日)の予定(3月の申込み受け付けは1日から)。午後1時から5時。ジムの利用料以外、参加費は無料。申込み・問合せはInstagramまたはメールhamamonkey2025@gmail.comで。

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