旭区・瀬谷区 人物風土記
公開日:2012.11.01
相鉄ギャラリーで個展を開催しているはり絵画家
内田 正泰さん
さちが丘在住 90歳
「文化は心、文明はもの」
○…「破いた線が、何かあったかくていい」。真っ白の画用紙をおもむろに手でちぎり、台紙に糊で張る。用意していた色紙片を添え、ちぎった画用紙に筆で少し模様を入れると、あっという間にダルメシアンの顔ができあがった。「五感が大切」。はり絵を続けて半世紀余り、原画は600点にのぼる。徹底して考え抜かれた色彩と構図。その原点は少年時代にさかのぼる。
○…父は軍人、母は女子美の一期生。こいのぼりを制作する父の筆さばき、上品で渋い色遣いに、ただ見とれていた情景が浮かぶ。小学6年のときには、図画が苦手だった担任教諭に代わって、級友50人に水彩画などを教えていたという。横浜国大の建築学科に進み、フランス建築を学んだ後、海軍航空隊へ。上官に「向いてない」と辞めさせられ、間もなく終戦を迎えた。何もなかった20代前半。「生きる、死ぬことについて真面目に考えるようになった」
○…30代でカネボウ食品(旧ワタナベ製菓)勤務を経て独立し、グラフィックデザイン事務所を設立。20数年前には、全国で知られる永谷園「あさげ」「ゆうげ」のパッケージの絵と文字を手がけた。自然を題材に色彩を突き詰めようと決めたのは、大学時代の恩師に教わった色彩構成がきっかけ。本業の傍ら、はり絵の世界にのめり込んで55年近く経つ。使命感を持ち、夢中で創作を続けて気づいたテーマが「文化は心、文明はもの」。「文明には単位があるが、文化には単位がない。何百枚もの絵じゃないと伝わらない」。創作活動に専念する今、そう断言する。
○…妻と長男の家族の6人暮らし。旭区居住歴は約半世紀になる。全国で作品展を開くほか、作品の一つが、震災の復興支援を目指して岩手県山田町で8月、創刊した情報誌の表紙になった。自然は嘘をつくらず、人間は虚偽をつくるから、自然を師とする―というのが信条だ。「日本のうんと美しいところを褒めて、褒め続けて死のうと思ってる」
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