戸塚区・泉区 文化
公開日:2025.06.19
祖父の技術守る孫
銭湯の“絶景”新たに世に
泉区・間川千奈さん(27)
湯気立つ浴槽の上に、鮮やかな青い空と思わず見上げる日本の象徴・富士山を描く。町の小さな空間に”絶景”を生み出すのが、「銭湯背景画絵師」の職人技だ。
しかし国内の銭湯は減少しており、その文化も失われつつある。そんな中、泉区の間川千奈さんは銭湯背景画の技術を継承し、新たな形で世に広めるべく奔走している。
これまで、日本で活動する銭湯背景画絵師はわずか3人と言われ、その一人・丸山清人さん(89歳/東京都)は千奈さんの祖父。清人さんは18歳で弟子入りし、25歳で独立して以来、手がけた作品は1万点以上という。
千奈さんは祖父の仕事姿を幼いころから見ており、絵に興味を持つように。中学生で「絵に関わる仕事をしたい」と思い始め、多摩美術大学に進学。情報デザイン学科では、パソコンなどを使ってデジタルの側面から美術に携わっていた。
転換期となったのは、祖父をテーマにした卒業制作。仕事現場で祖父を撮影したり、手伝いをしたり間近で職人技に触れる中で「この仕事がいい」と心が決まった。
「祖父からは『生活するには大変だ』と言われました」と明かす。それでも銭湯背景画とその技術を残したいという思いを伝えた。祖父であり師匠である清人さんは、自分と同じ道を進む喜びとともに千奈さんの決意を応援してくれたという。
「個性ある、愛される作品を」
間川さんは大学卒業後、祖父の指導のもと銭湯背景画の技術を本格的に学んだ。新たに4人目の絵師として活動を始め、現在は祖父の作品の修復を担う。間川さんは「体力と集中力が必要な作業。終わると全身筋肉痛です」と笑う。
さらに間川さんは、銭湯背景画の題材とされる富士山や日本の風景画を、升や下駄、店の看板などに描く作品を制作している。銭湯が減少する今、新たな形でその技術と文化を展開するべく尽力している。
今年4月には東京都中野区のギャラリーで、祖父と展示会を開催。来場者から自分の作品への反応を受けるとともに、並んだ祖父の作品が多くの人を魅了してきたことを改めて実感した。
間川さんは「祖父のように愛される作品をつくりたい。技術と画風を受け継ぎながら、自分の個性も大切に」。職人という高みを目指し、登り始めたばかり。
- 関連リンク
- 間川千奈さんの作品はこちらから
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