横浜「注目の人」インタビュー みなとみらいで作品展開催中の「葉っぱ切り絵アーティスト」 リト@葉っぱ切り絵さん 苦手より得意を伸ばして作家に
一枚の葉っぱを細かく切り出して動物などを描く「葉っぱ切り絵アーティスト」として活躍するリト@葉っぱ切り絵さん(38)の作品展「Hello! Leaf Art World in Yokohama リト@葉っぱ切り絵展 in 横浜みなとみらい」が西区のMM21グランモール公園1Fクロス・パティオで3月29日に始まり、8月31日まで行われている。リトさんは社会人になってADHD(注意欠如・多動性障害)と診断され、偏った集中力やこだわりを生かそうと葉っぱ切り絵に取り組み、それをSNSに投稿し続けたところ注目を集めるようになった。子どもの頃の経験や作品展への思いなどについて聞いた。(取材=2025年5月24日)
◇ ◇ ◇
――これまで、横浜ではそごう美術館、山下公園での展示、野毛山公園とのコラボレーション企画などがありましたが、今回の作品展の特長を教えて下さい。
「5カ月間と開催期間が長いので、会期中に何度も見に来てもらえるように、前後半で展示作品を入れ替えることも考えています。これまでは、相手側からの要望を受けて、一緒に作品を作るという形が多かったのですが、今回は僕に任せてもらえている部分が多いので、こだわりが詰まった作品展になっていると思います」
――特にどのような点にこだわりましたか。
「横浜の作品を見てほしいという思いがあります。山下公園で展示した時は、みなとみらいと中華街という横浜をテーマにした作品が2つあったのですが、もう1つ新しい作品を展示しています。この作品は、今回のために作ったものではなく、実はいつか横浜でイベントが決まった時にみんなに見てもらおうと思って作っていたものです。それを作品展のメインビジュアルに使っています」
――メインビジュアルになっている飛んでいるクジラにみんなが乗っている作品(タイトル「行き先は潮風の吹くまま、気の向くまま」)ですね。この作品のモチーフは。
「みなとみらいです。よく見るとランドマークタワーやインターコンチネンタルホテルが描かれています。その上空をクジラが飛んでいるのですが、口にくわえているパイプは船のイメージなんです。空を飛んでいるけれど、海の街である横浜をイメージして作りました。ずっと温めていた作品を皆さんに見ていただけることになってうれしいです」
――作品展の中では、作品を来場者の前で作る実演もありました。
「今まで実演は断っていたのですが、今回は地元横浜での長期の展示ですし、1度来た方にもまた来てもらいたいという思いがあるので、特別にお見せすることにしました。昨年、野毛山動物園で展示した時も、横浜だからという理由で特別に実演しました」
ゲーム好きで一つのことに没頭
――小学生の頃はどのような子どもでしたか。
「横浜市保土ケ谷区に往んでいました。ゲームや漫画がとても好きで、友達との会話もほとんどゲームの話でした。当時『コロコロコミック』(小学生向け漫画雑誌)が流行っていて、ミニ四駆など、子どもたちの流行りのものは一通りやりましたね。あまりスポーツは得意ではなかったので、外でみんなとボール遊びをするのは苦手で、インドア派でした」
――その頃からイラストや絵は得意だったのですか。
「得意でした。ただ、子どもの頃は絵が上手いとか下手とかあまり考えずに描いていました。よく描いていたのは、小学生の頃に流行っていた『ポケモン』!描いた絵を友達に見てもらったり、ノートに細かい迷路を書いて友達にやってもらったりしていました。絵を描いたり細かい作業が得意だったんですね。一つのことに集中すると没頭するタイプで、細かいブロックの組み立てにハマることもありました」
――得意な科目は。
「小学校の頃、図工は好きでしたね。あとは国語も。教科書で勉強した『エルマーの冒険』や『スイミー』、『スーホの白い馬』はよく覚えています。実際にそれを葉っぱ切り絵のモチーフにしたこともあります。僕と同じ思いをした世代がいっぱいいるだろうなと思って作ったら、SNSで『教科書でやりました』と反応がありました。勉強しておいて良かったと思いました」
――当時、「苦手だな」と感じることはありましたか。
「子どもの頃から忘れ物が異常に多かったですね。何回注意されてもポケットにティッシュを入れたまま洗濯に出してしまったり。鍵や定期を忘れることは今でもよくあります」
――学校の友達や先生、両親からは何か言われましたか。
「あまり気にしていませんでした。親からはよく『要領が悪い』、『不器用』と言われ、呆れている状態で…。僕も怒られ慣れているから、別にへこみもしないし、反省もしませんでした」
発達障害と診断されて気持ちが楽に
――社会人になってからはどうでしたか。
「お給料をもらう立場になって、責任感が一気に湧きました。学生の頃は『まあまあ』で済んだのですが、社会人はそうもいかなくて、生きづらさを感じるようになりました。仕事は、最初は持ち帰り寿司の販売。2社目はダンボールを作る工場に行きましたがすぐ辞めてしまい、3社目で和菓子を販売する会社に入り、そこで初めて自分の障害を知ったという感じです。その会社の上司に『あなたは頑張っているが、仕事がうまくできていないのは、やり方が合わないのでは。こっちも合わせるから、やりにくいことがあったら教えて』と言われました」
――理解のある上司だったんですね。
「僕も店長候補としてその会社に入ったので、何とか店長にしようと頑張ってくれていたのです。厳しい人でしたが、いろいろと考えてくれていました。ただ、僕自身は自分がなぜできないのか分からなかった。漠然と『頑張ればできる』と思っていたので、『頑張ります』としか言えなくて。でも、結果は変わらない。それが続いて職場に行きづらくなりました。ある時、僕みたいに、やろうとしてるのにうまくいかない人が世の中にもいるんじゃないかと思い、ネットで『仕事 要領が悪い』などといろいろ検索してみました。すると、同じように悩んでいる人が質問掲示板で投稿していて、それに対し『もしかして発達障害なのでは』という回答があったんです。そこで初めて発達障害という言葉を知り、検索したら、もう本当に1から10まで、全部自分に当てはまっていたので、すぐ診断を受けにいきました」
――病院でADHDと診断された時、どのように感じましたか。
「とりあえず、自分の中で引っかかっていたものが取れたというか、怠けとか努力不足のせいなのかなと思っていたものが、そうではないんだと分かりました。生まれつきのものであると聞き、ちょっと気持ちは楽になりました。もし、『あなたは普通ですよ』と診断されていたら、そっちの方が辛かったかもしれないです」
子どもたちへ 「『楽しい』を全力で」
――自身の経験を踏まえて子どもたちに伝えたいことはありますか。
「今になって思うのは、小学校の頃楽しかったことが仕事に生きているんですよね。だから、今『楽しい』って思えることを全力でやってほしい。子どもの頃にやっていたゲームが意外なところでそれが生きてくる瞬間が来るんですよね。僕は社会人の頃は分からなかったけど、この仕事をするようになり、親に連れて行ってもらったディズニーランドの思い出も作品になっているし、全部無駄ではなかったと思っています。子どもの頃に楽しかったことや友達と遊んだ経験、連れて行ってもらった場所で感じることって、大人と子どもで違うんですよね。だから、子どもの頃に『楽しい』って思えることを今は全力でやるのが一番大事だと思います」
――苦手なことがある子たちへのメッセージがあればお願いします。
「苦手なことをできるようにするのは大事なことだけれども、限界があると思うんです。僕は苦手なことをみんなと同じようにできることを目指し、それがうまくいかなくて社会人を辞めてしまいました。だけど、過集中という自分の長所を生かして、今は作家になっています。だから、苦手を克服するよりも、好きなことや得意なことを伸ばす方が成長にもつながるんじゃないかと思っています。自分が何が好きで、友達と比べて何が得意なんだろうということをちゃんと見ておくことが大事だと思います」
5年間で技術向上
――偶然、海外の葉っぱ切り絵アーティストの作品を目にして、2020年から独学で作品作りを始めて5年が経ちますが、この5年間で変わったことはありますか。
「自分では毎日同じことやっている感じですが、過去の作品を見た時に『あれ、こんなに下手だったっけ』って思うんですよね。同じ生き物を作っていても『こんなに雑だったのか』とか。だから、見えないところでちゃんとブラッシュアップされているんだなと思います。当時は表現できなかったことが、今はできるようになっていると感じます」
――具体的にはどのようなところが表現できるようになりましたか。
「例えば、5月の実演で作ったパンダは今まで難しかったのですが、昨年からようやく作れるようになりました。葉っぱの切り絵は緑か茶色になるので、普通に切ると熊にしか見えないんですよ。パンダに見せるためには白と黒がないとダメだと思っていて、あまり作りたくないモチーフでした。体の内側を白くくり抜いて、雲とか白いものを背景にすると体が白くなるのですが、以前は中をきれいにくり抜くほど繊細な技術がなくてできなかったんです。でも、カット技術が上がり、できるようになりました」
――作品はどのような手順で作っているのでしょうか。
「最初は自由にいろんなデザインを描いてみて、決まったら葉っぱの裏にそれを描き、線に沿ってデザインナイフで上から葉を回しながら、ミシンみたいに何回もナイフを刺して穴をくり抜いていきます。完成まで短ければ2時間、長いと8時間から10時間くらいかかります。基本は作り始めたら最後まで一気に仕上げます。文字が入ったり、出てくるキャラクターが多いと時間がかかります。例えば、誕生日を祝う作品だと、『ハッピーバースデー』という文字を作らなければならず、お誕生日感も出さなきゃいけません。動物を何体も入れて、ケーキも作って風船も飛ばしたりするので、大変なんです。」
――葉っぱ切り絵で一番難しいところはどこですか。
「作品にはセリフも色もなく、シルエットだけで物語を演技させなきゃいけないというのが難しいです。だから目の形がちょっとでも欠けたら悲しそうになったり、怒っているように見えるので、そういう点も気を付けます。にっこりした口もほんの少しずれたら、ニヤっとした変な顔になっちゃったり(笑)。とても難しいですね」
――作品のアイデアは次々に湧いてくるものですか。
「なかなか湧かないですね。なので、『今日は何の日』などを調べ、その日に合わせてテーマを考えたり、時期に合わせて考えます。あとは、同じ作品を別の動物に変えて作るなど、以前の作品にもう一度、今の技術でチャレンジすることもあります。子どもの頃はあまり絵本を読んでなくて、図鑑をよく読んでいたんですけど、最近は絵本から勉強しています」
「味変」で新しいことにチャレンジ
――作品で意識している点を教えて下さい。
「葉っぱ切り絵を始めた当初は、シンプルな犬や猫、ウサギなどは作りたくなくて、変わった動物や絶滅種の動物とか、みんなが知らないような動物をよく作っていました。それで、SNSにも解説を一緒に載せて、他の人と差別化できるんじゃないかと思っていたんです。犬、猫、ウサギなどは作家が多くいますから。同じことやってても『可愛い』で終わってしまうと思って、奇をてらったことをやっていました。でも、あまり反応がなくて…。作品のストーリーやキャラクターを誰が見ても分かるようにシンプルにしたら、SNSの反応も増えてきたので、そこから方向性が変わりました」
――作品のタイトルにこだわっていらっしゃるようですね。
「実は作品を作るよりもタイトルを付けることが一番大変!アイデアまでは浮かんでも、タイトルが浮かばなくてボツにする作品もあるんですよ。絵の技術は僕より上手い人はいっぱいいるけれど、タイトルの付け方は個性が出るところだと思うので、誰が見ても『これだよね』というタイトルをそのまま付けるのではなくて、タイトルを見ると、さらにその作品の世界が広がって想像が膨らむようなことを意識して、あまり説明っぽくならないようにしています。また、作品を『優しい世界』と言っていただくことが多いのですが、そればかりだと飽きられてしまうし、僕も飽きてしまう。だから、そういう優しさもありつつ、ちょっとしたギャグやダジャレみたいな要素も入れたりしています。先日、僕の作品を知らない人たちに向けてSNSで『名探偵コナン』のコーナーを作ったら、韓国や台湾の方からもメッセージが来て、多くのコナンファンからフォローされました。同じ味だと食べている方も作る方も飽きちゃうので、常に『味変』しながら新しいことにもチャレンジしています」
――今後の目標を教えて下さい。
「海外の方にも伝わる日本らしさが感じられる作品を作って発信していきたいです」
![]() 子どもたちに「『楽しい』って思えることを今は全力でやるのが一番大事」と語るリト@葉っぱ切り絵さん
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