第65回全国高等学校ボクシング選手権大会 ピン級で優勝した 井上 拓真さん 綾瀬西高校 1年
飛ぶ鳥おとす、強靭な身芯
○…いつものペースで、いつものように。平生を保ちリングに立った。後ろにはライトフライ級の決勝へ備える兄、応援席には所属ジム会長の父が見守っていた。自分の距離感を保ち、相手の攻撃をかわす井上流「もらわないボクシング」で、全国大会の決勝も12対4の大差をつけて判定勝ち。「タイトルを全てとる」。今大会と10月の国体と春の選抜の3冠が1年生での目標。ルーキーは期待を裏切らなかった。
○…「井上兄弟」と呼ばれ、ボクシング界では2歳上の兄とともに全国でも有名人。小学校1年生からジムでトレーニングを始め、「やるからにはちゃんとやれ」と、厳しい父の教えに黙々をメニューをこなしてきた。4年生で初出場した大会ですぐに頭角を現し、翌年には中学生もおさえ「敢闘賞」を受賞。今年7月には世界ジュニア代表としてカザフスタンの舞台に立った。世界を相手にするも「特には変わらない」と淡々と話す。メンタル面の強さは兄も認めるほどで、高校生になってからは「冷静に考えながら試合できるようになった」とさらに長所を伸ばし飛躍する。
○…幼い頃には叱られて泣いたこともある。「正座して、目からこらえきれずに涙が流れてね」。隣で母親が幼少期の話をすると、所在無げに苦笑いを浮かべた。ジムや大会など多くの時間を一緒に過ごす家族は「超」が付くほど仲良し。「綾瀬西に受かったら1万円!」赤字で大きく書いた張り紙が壁に貼られ、その隣には、差出人が「父」と書かれた手の付いていない祝儀袋が置いてあった。
○…全国優勝を決め、今度は兄が決勝へ向かう時。すれ違いざまに、どちらが先でもなく、スッと拳と拳を交わした。世界大会に出場するため、次の国体に兄はいない。最初で最後の兄弟優勝だった。幼い頃から憧れていた高校ボクシングで鮮烈なスタートをきった。前人未到の高校全タイトルまで、あと7冠。