白銀に輝く美しい魚体を持つサクラマス。多くの釣り人にとって憧れであるこの魚が、かつての相模川には数多く遡上した。今や幻となってしまったサクラマスを再び甦らせようと、釣り愛好家らが11月25日、厚木市の三川合流点で稚魚約3千5百匹を放流した。釣り人、漁協、行政が手を取りあい、壮大なプロジェクトが第一歩を踏み出した。
「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」と名付けられたこの活動は、釣り愛好家団体「キャッチ&クリーン」が母体となっている。「来た時よりも少しだけ綺麗にして帰ろう」を合言葉に、中津川などで河川清掃やヤマメの稚魚放流を定期的に行ってきた。
サクラマスは渓流魚のヤマメが海に下り、豊富な餌を食べて大きく成長した魚を指す。相模湖が建設される前には年間数トン単位で漁獲されたというが、ダムや堰によって産卵場所となる渓流域にたどり着くことができなくなるなど、急激に生息数が減少していった。
同団体の発起人である小平豊さんは、2013年頃から仲間や相模川漁業協同組合連合会などに働きかけ、サクラマス復活の準備を進めてきた。釣り人たちが放流する稚魚の購入資金を募るなど徐々に活動の輪が広がり、今回の放流が実現した。
放流会では、約90人が参加した。「今日の放流は今までの積み重ねがあったからこそ。漁協、行政、釣り人が一緒になって活動できる。そんな時代になってきたと感じています」そう話す小平さんの視線の先には、同じ志を持つ仲間たちの姿。「サクラマスは森と川と海をつなぐ自然のシンボル。ここには丹沢があり、相模川がある。今ならまだ再生が間に合うんです」と小平さんは語る。
今回放流した魚は降海しやすい個体を選別したものだが、どれだけ戻ってこられるかは未知数だ。そのため、ヒレの一部を切り取り標識魚として来春の遡上を調査する。
適正な水温や安定した水量のほか、魚が通りやすい魚道や産卵場所の整備など、まだまだ課題は多い。放流会で講演した神奈川県内水面試験場の勝呂尚之専門研究員も「10年、20年先を見据えた息の長い活動が必要になる」と話す。
先達も夢をサポート
今回のプロジェクトが誕生する以前にも、相模川でサクラマスの復活を夢見て活動する団体があった。「回帰マス連絡会」というこの団体も、釣り愛好家たちが集って組織され、1991年から18年間活動を行っていた。
現在は活動を休止してしまったが、当時の代表を務めた伊藤公雄さんもサクラマスの生態を知る生き字引として、今回のサクラマス復活プロジェクトに協力している。伊藤さんは「9年のブランクはあるが、後継が育ってくれて嬉しい」と笑顔を見せる。相模川漁業協同組合連合会の木藤照雄代表理事会長も「相模川の水系が一つになって、協力していきたい」と活動を支援する。
プロジェクトでは今後も稚魚放流などの活動を続けていく。「まずは最初の一歩、ここから広げていきたい」。滔々(とうとう)と流れる相模川を眺める小平さんの瞳には、既にたくましく泳ぐサクラマスの姿が見えている。
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