鎌倉のとっておき 〈第108回〉 鎌倉夏ごよみ〜水無月から〜
鎌倉の夏は、海が主役とのイメージも強いが、街中(まちなか)では古(いにしえ)の人々の思いを今に伝える行事も数々行われている。
はじめに6月上旬、鶴岡八幡宮で行われる「蛍放生(ほうじょう)祭」。これは、蛍の生育と放生を通して豊かな四季と生命の尊さを思い、今生きていることを神々に感謝する祭。
当日は夕刻から、舞殿で蛍が神前に供えられ、巫女(みこ)による舞などの神事が行われた後、柳原神池(しんち)にて蛍が放たれる。笙(しょう)の音に包まれる闇の中で、数多(あまた)の蛍が飛び交う姿は、見る人を幻想的な和の世界へと引き込んでいく。
7月7日、鶴岡八幡宮では「七夕祭」も行われる。もともとは大陸の乞巧奠(きっこうでん)という星祭りで、日本では古来宮中で短冊に願いを書き笹につるして技芸の上達を願うものなどとして知られている。
当日は、舞殿などに彩り豊かなくす玉と吹流しなどの七夕飾りが笹竹に掲げられ、巫女による神楽も奉奏される。良縁を祈念する祭でもある。
そして海の日に、坂ノ下の御霊(ごりょう)神社の境内社、石上神社で行われる「石上神社例祭」。海神を鎮め、海で遭難した人の霊を慰める神事。船に乗せた神輿(みこし)とともに、神前に供えた御供(ごく)(赤飯)を捧げながら、若者が海中を泳ぎ御供を流すので「御供流し」とも呼ばれる。
夏、海水浴場のにぎわいとともに、街中も一層活気づく古都鎌倉。生きていることのありがたさ、人との縁(えにし)の大切さを実感できるまちである。
石塚裕之
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